セラチアによる院内感染について−東京都
(Vol.21 p 166-167)

セラチアは下水等の湿性環境や入院患者の喀痰および尿から分離される場合が多く、弱毒菌、常在菌であるが、癌、白血病、糖尿病、AIDS、移植医療受療者等免疫能力が低下した患者では本菌による敗血症(菌血症)はそれほど稀ではない。また病院では、通常重篤な疾病を引き起こすことの少ない病原体による感染症、いわゆる日和見感染症や院内感染を起こす病原体として認識されている。

1999(平成11)年7月下旬、都内のS病院の3階病棟に入院中の患者数名が突然の高熱、凝固障害(DIC)、急性腎不全等を併発して次々に重症化し、そのうち5名が死亡するという事件が発生した。当初はその原因としてレジオネラ感染症などが考えられたが、発熱患者10名の血液培養よりセラチアが検出されたため、今回の疾患はグラム陰性菌であるセラチアを原因とした敗血症の集団発生であると結論された。

東京都衛生局は8月3日、不明疾患調査班を設置し、感染経路、感染原因等の調査を行った。

発症者の概要(表1)を示す。なお「発症者」とは1999年7月26日〜29日に38℃以上の発熱があり、血液からセラチアが分離された入院患者と定義した。

所轄保健所は7月30日より病院での調査を開始し、患者由来検体、環境検体(冷却塔水等)等が集められ都立衛生研究所に搬入された。病原体については、環境検体からはレジオネラとセラチアが検出された。患者血液からはセラチアのみが検出され、他の起因菌となりうる菌は検出されず、セラチアによる敗血症が死因ではないかと考えられた。その後の調査で2階の無症状患者の尿からもセラチアが検出されたため、敗血症患者由来セラチア12株、無症状患者由来株および環境由来株等計23株のセラチアについて解析を行った。XbaI、SpeI 2種類の制限酵素によるPFGE、RAPD PCR、プラスミドプロファイルによる遺伝子解析、12種類の抗生物質によるディスク法での薬剤感受性試験、31種類の性状試験の結果、供試したセラチアは9グループに分類され、敗血症患者10人から分離された12株はすべて同一グループ(表2)に属し同一感染源であることが示唆されたが、感染経路については特定できなかった。

一般に、病院施設内にはセラチア・MRSA等の病原体が存在しており、施設内での医療器具・投与薬剤等の無菌管理が重要であることが示唆された(詳細は「東京都不明疾患調査班報告書:平成12年3月・東京都衛生局医療福祉部結核感染症課参照)。

東京都立衛生研究所微生物部
遠藤美代子 奥野ルミ 下島優香子 村田以和夫 関根大正 小久保彌太郎

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る