セラチアの輸液中での増殖実験
(Vol.21 p 167-167)

セラチアによる日和見感染ではその感染経路の特定は容易でない。一度に大量の菌に暴露されうる経路としては、点滴輸液を介した感染も否定できない。東京都内の病院における点滴輸液の準備について調査した結果、点滴主ボトル、調合薬剤の準備は薬剤師が行い、「ぬきさし」点滴については前日の準夜帯(16時〜18時)に患者受け持ち看護婦が、処置室において主ボトルと調合薬剤を混合して準備し、室温に静置し(調製から点滴開始まで10時間以上)、翌日投与していた。

そこで輸液中におけるセラチアの増殖実験を実施した。その結果、病院で使用していた輸液9種中5種において、室温・24時間で多い場合には105倍以上、少ない場合でも103倍の増殖が認められた。

 供試菌株:患者由来Serratia marcesens
 供試輸液:9種類
  GC:日本薬局方ブドウ糖注射液
  KN:総合電解質液
  AL:静注用アミノ酸製剤
  AP:総合アミノ酸製剤
  IL:静注用脂肪乳剤
  DX:血漿増量・体外循環灌流液
  TP:高カロリー輸液用糖・電解質液
  AF:糖・電解質・アミノ酸液
  PT:糖質・電解質輸液

 試験方法:供試輸液20ml中に菌液10μl添加し、室温に放置し、6時間・24時間後の菌量を混釈平板法にて求めた。汚染菌量は極微量であったと想定し、添加菌量を調整した。

 試験結果:この結果()、ILの中でセラチアは24時間で105倍以上増加し、また、DXの中では104〜105倍、KN・AF・GCでは102〜105倍に増加した。

また、点滴輸液のボトルの注入口(ゴムキャップ)に菌を付着させ、注射針で注入口を通過させると菌はボトル中に侵入することも確認された。

これらの結果より、輸液ボトルの調製中に菌が混入し、室温に10時間以上おかれた場合、輸液中では菌は相当な数にまで増菌し、大量の菌の暴露源となり、敗血症の短期集中発生の原因となりうることが示唆された。

東京都立衛生研究所微生物部
遠藤美代子 奥野ルミ 下島優香子 村田以和夫 関根大正 小久保彌太郎

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る