教育研修施設において発生したヒトC群ロタウイルスによる集団胃腸炎事例−岡山県
(Vol.21 p 169-170)

昨年、県内で初めてヒトC群ロタウイルス(Human group C rotavirus、以下CHRV)による集団胃腸炎事例を経験した(本月報Vol.20、No.9参照)が、本年も引き続きCHRVによる集団胃腸炎事例が確認されたので、その概要について報告する。

2000(平成12)年5月24日〜26日にかけて県南部の教育研修施設での宿泊研修に参加した2つの小学校(F小学校およびK小学校)の生徒が、5月26日〜28日にかけて嘔吐、下痢、発熱などを訴えていると倉敷保健所に通報があり調査が開始された。

その結果、研修に参加した生徒(いずれも6年生)および教職員あわせて 172名(F小学校51名およびK小学校 121名)のうち、5月24日〜30日の間にF小学校で26名(51%)およびK小学校で61名(50%)の計87名(51%)が胃腸炎症状を訴えていることが判明した。患者発生状況(図1)をみると、患者の31%(27名)が5月27日に集中して発症しており、それ以外では5月24日〜30日の間に散発的に発症していた。なお、教職員にも2名の発症者がみられた。患者87名の主な症状別の発症率は、腹痛87%、下痢51%、嘔吐・嘔気22%、発熱13%、頭痛15%であった。また学校別の発症率をみると、F小学校では腹痛85%、下痢69%、嘔吐・嘔気39%、発熱35%、頭痛35%であったのに対し、K小学校では腹痛89%、下痢43%、嘔吐・嘔気15%、発熱3.3%、頭痛6.6%であり、F小学校の患者の方が一般に症状の重い傾向が認められた。

5月24日〜30日に発症した患者31名(F小学校13名およびK小学校18名)について、5月30日〜6月1日(患者の第2〜9病日に相当)に糞便を採取し、食中毒菌およびウイルス検査を実施した。菌検索では原因と考えられる食中毒菌が検出されなかったため、電子顕微鏡によるウイルス検索を行ったところ、3名でロタウイルス様粒子が観察された(表1)。そこでA群ロタウイルス検出用ELISA法(ロタクローン、TFB社製)を行ったが全例陰性であったため、当センターで開発したCHRV検出用RPHA法(デンカ生研社製)を実施したところ、電子顕微鏡検索陽性例のみからCHRVが検出された。しかしながら検出率が低く、CHRVを原因ウイルスとして特定し得なかったため、さらにアストロウイルス(AstV)検出用ELISA 法 (IDEIATM Astrovirus、DAKO社製)、ノーウォークウイルス(NV)検出用RT-PCR法(平成11年2月10日付衛食第20号衛乳第28号の別添に準拠)およびCHRV検出用RT-PCR法(J. Clin. Microbiol. Vol.34, 3185-3189)を行った。その結果、AstVおよびNVはすべて陰性であったのに対し、21名(68%)からCHRVの遺伝子が検出された(表1)。さらに、患者発生が5月27日にやや集中していたたことから集団食中毒の可能性も考え、調理従事者6名について患者と同様のウイルス検索を行ったが、全例陰性であった。なお今回、施設内で喫食した食材についてはウイルス検索を実施していない。

CHRV検出状況は図1に示すように、全発症期間にわたって検出されており、特に研修初日の5月24日に発症日した患者5名中3名(F小学校2名およびK小学校1名)からもCHRV遺伝子が検出されたことは注目に値した。学校別の検出率では、F小学校が13名中8名(62%)およびK小学校が18名中13名(72%)と大差はなく、クラス別の検出状況にも差はみられなかった(表1)。また、検査した31名の臨床症状の重症度とCHRV遺伝子検出との間に特に関連性は認められなかった。

今回のCHRVによる集団胃腸炎事例の感染経路については、両校とも研修初日の5月24日に発症した患者からウイルス遺伝子が検出されていたこと、および調理従事者からは同遺伝子が検出されなかったことなどから、「ヒト→ヒト感染」が強く疑われた。なお、両校で臨床症状に差が認められたこと、および施設内において学校間の相互感染があったのかについては、さらに詳しい検討が必要である。

ここ数年CHRVによる集団胃腸炎事例が毎年のように報告されており[本月報Vol.17(No.12)、Vol.18(No.12)Vol.19(No.11)参照]、また岡山県でも2年続けて本ウイルスによる集団胃腸炎事例が確認されたことなどから、今後の流行拡大が大いに危惧される。これまでの報告を総合すると,CHRVによる集団胃腸炎事例のほとんどが4〜6月に集中して発生していることから、特にこの時期の集団胃腸炎事例にはRT-PCR法をも含めたCHRVの検索が不可欠であると思われた。

最後に、疫学情報の収集および検体採取に多大なご協力を頂いた倉敷保健所の関係各位に深謝します。

岡山県環境保健センター
葛谷光隆 濱野雅子 藤井理津志 小倉 肇

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