最近秋田県においてエキノコックス症として届けられその後肝蛭症と確定診断された症例について
(Vol.21 p 170-171)

1999年10月に秋田県においてエキノコックス症(ここでは狭義の多包虫症を指す)が発生したとの報道は、その直前に青森県においてブタでエキノコックスの感染が発見されたとの報道とも相まって一時全国的な話題となった。その後A病院の病理部からの依頼で病理切片の検査を行う機会を得たが、その結果、本症例は肝蛭(Fasciola sp.)の幼若虫の感染であることが確認された。さらに、当初の診断に用いられた患者血清を入手し、dot-ELISA(12種の蠕虫抗原)、ELISA (肝蛭、多包虫、日本住血吸虫の抗原)、Western blotting(肝蛭抗原)、ゲル内沈降反応(肝蛭抗原)を用いて血清学的な検証も試みた。その際には肝蛭症陽性患者血清を入手し、陽性対照とした。その結果、患者血清はdot-ELISAで肝蛭抗原に対して強陽性を示した。dot-ELISAでは患者血清ならびに陽性対照血清のいずれもがマンソン裂頭条虫のプレロセルコイド抗原に対して弱いながら交叉反応を示した。またELISAでは多包虫抗原に対しても陽性反応を示したが、肝蛭抗原に対する反応の方がはるかに強く、したがって多包虫抗原に対する反応は交叉反応と判定された。さらに、ゲル内沈降反応では、患者血清の沈降線と陽性対照血清の沈降線が完全に融合したことから、肝蛭症であることが確定された。

寄生虫症の血清学的診断では交叉反応を示すことが多いため、上述のように多種類の抗原を用いて反応の強度を比較し、交叉反応を除外する(真の反応の確定)作業が行われている。また、今回の症例は1999(平成11)年6月4日に別の疾患の疑いで来院し、画像診断を受けているがその際には肝の異常は認められていなかった。その3カ月後の9月に再来院した際の画像診断で肝の異常が認められエキノコックス症の疑いとなった。エキノコックス症では病変形成まで通常5〜10年を要し、きわめて慢性的に進行することへの認識が不可欠であると考える。

以上のように、本例は当初第4類感染症エキノコックス症として届け出られたが、その後の精査により肝蛭症と確定診断されたため届け出から削除された。

秋田大学医学部寄生虫学教室 吉村堅太郎

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