The Topic of This Month Vol.21No.8(No.246)
厚生省食中毒統計によると、細菌性食中毒の患者総数は1996年は38,408名、1997年29,104名、1998年36,337名、1999年27,741名と推移している。この中でサルモネラによる患者数の占める割合は、1996年は43%(16,334名)、1997年38%(10,926名)、1998年32%(11,471名)、1999年43%(11,888名)であり、1998年に腸炎ビブリオが第1位を占めた(本月報Vol.20、No.7参照)のを除き、病因物質として引き続き第1位を占めている。サルモネラ食中毒1事件あたりの患者数は、1996年は47名であったが、1997年21名、1998年15名、1999年14名と減少傾向にある。これは1997年後半から散発例の報告が増加していることによるもので、2人以上の事件に関しては1998年の1事件当たりの患者数は35名である。患者数 500名以上の事件は1996年〜1998年の間に6件発生している(表1)。月別の発生状況は図1に示すように、9月をピークに夏場に多く発生している。
全国の地研・保健所から国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)に報告されたサルモネラの検出数は、近年は年間5,000〜6,000とほぼ横ばい状態にある(図2)。このうち血清型上位15位は表2に示す通りであり、1989年以来Salmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis(S. Enteritidis)が第1位を占めている。その割合は1996年は58%、1997年55%、1998年62%、1999年46%であり、これは2位以下の10倍以上にあたる(1999年を除く)。
一方、1988年まで第1位を占めていたS. Typhimurium(本月報Vol.14、No.1、Vol.16、No.1&Vol.18、No.3参照)は1996年は第3位、1997年第4位、1998年第2位、1999年第5位であった。欧米では多剤耐性(主としてアンピシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、スルホンアミドおよびテトラサイクリンに耐性)で、ファージ型がdefinitive type 104 (DT 104)というS. Typhimuriumが流行しており(本月報Vol.18、No.6&Vol.21、No.6参照)、わが国でも同じ型のS. Typhimuriumが分離されているが、現在ところS. Enteritidisのような急激な増加は見られていない(図3)。
他の血清型ではS. Oranienburgの急激な増加が1999年にみられた。S. Oranienburgはこの15年間で、1986年第8位(検出数104/3,384)、1991年第9位(同130/5,550)であったが、これらの年を除いて上位15位にあがったことはなかった。しかしながら、1999年には6,315中1,375と22%を占めた(表2)。これは同菌に汚染された乾燥イカの加工品を原因食とした、1998年末〜1999年5月にかけて発生した一連の食中毒事件(いわゆるdiffuse outbreak)によるものである。本事件では汚染された原材料が駄菓子に加工され安価なおやつとして子供を中心に食されたこと、加工品が全国に流通したことなどから患者総数は1,505名にのぼった(本月報Vol.20、No.4、No.5、No.6、No.7参照)。本事件では死亡者は出なかったものの、後腹膜膿瘍形成(本月報Vol.20、No.6)、化膿性脊椎炎(本月報Vol.20、No.10)などの症例が報告されている。
血清型別検出数におけるこうした傾向はサルモネラによる食中毒集団発生原因菌の血清型分布にも表れている(表3)。1996〜1999年にIDSCに報告された集団発生のうち、患者数が10名以上の事件から検出されたサルモネラの血清型は毎年10種類前後であった。事件数は1996年116件、1997年103件、1998年80件、1999年102件と大きな変動は見られない。そのうちS. Enteritidisによるものは、1996年76%、1997年88%、1998年80%、1999年66%で、上述の乾燥イカによる集団発生の影響を受けた1999年を除き高い割合であった。S. Enteritidisによる集団発生においては鶏卵が使用されている例が多く、また2次汚染も重要な発生要因の一つと考えられている(本月報Vol.18、No.9)。
感染研細菌部に送付されたS. Enteritidisのうち、家族内感染を含む集団発生由来株のファージ型別の結果を表4に示す。ファージ型(PT)4が1996年は44%、1997年47%、1998年42%、1999年33%と第1位を、次いでPT1 が第2位を占める状態が続いている。しかし、PT1とPT4の合計は1996年の85%から1999年には60%に減少しており、他方PT6、6a、21、47およびRDNCなどがしばしば検出されるようになってきている。
サルモネラは下痢等の腸内感染にとどまらず敗血症等の全身感染に移行して患者を死亡させる場合もあるので(本月報Vol.19、No.2&Vol.20、No.11)、早めに医師に診てもらい、また症状の変化には十分な注意を払う必要がある。昨今、わが国においてはS. Enteritidisが蔓延している状態が続いており、本年も7月25日現在で173の菌株が報告されている(表2)。しかしながらサルモネラの血清型は2,300種以上もあり、1999年の乾燥イカによる事件のように、今までに検出例の少ない血清型によっても大規模食中毒が発生する場合がある。また、欧米では多剤耐性S. Typhimurium DT104が流行しており、わが国でも同菌が分離されてきている。こうした状況から今後もサルモネラによる食中毒およびその原因菌の血清型の動向に注意を払うとともに、特に夏場にかけて、食材の保存、取り扱い等に注意するなど、食中毒予防に関する啓発が重要である。