RT-PCR法によるSapporo-like viruses(SLVs)の検出−岩手県
(Vol.21 p 198-199)
Sapporo-like viruses(SLVs)にはNorwalk-like viruses(NLVs)と同様に遺伝子的に多様性が存在することが明らかにされているが、これまでは反応性良くSLVsを検出するRT-PCR法は報告されていなかった。Vinjeらは、既に公表されていたSLVsのシークエンス・データと自ら解読したSLVsのシークエンス・データの解析に基づいて、SLVsを幅広く検出できるプライマーセットを用いたRT-PCR法を確立したと報告した1)。そこで今回、電子顕微鏡(EM)にて古典的なカリシウイルスが検出された急性胃腸炎症例5例について、彼らの報告したプライマーセットを用いてSLVs遺伝子の検出を試みた。
対象症例(表1)は散発性小児急性胃腸炎4症例と集団食中毒事件の1症例で、いずれもEMにてダビデの星と形容されるウイルス粒子が検出された。また、全症例ともNLVs検出用のAndoらのG-1、G-2プライマー2)を用いたRT-PCRは陰性であった。糞便のEM観察用試料の一部からグアニジン・塩化セシウム超遠心法によりRNAを抽出し、ポリメラーゼ領域に設定されたSR80とJV33のプライマーを用いて320bp DNAの増幅を行った。得られたPCR産物はダイレクト・シークエンスを実施し、GENETYX-MAC Ver.8を用いて遺伝子解析を行った。検査の結果、全例からSLVが検出された。1999年の2株は同一の塩基配列であった。Vinjeらは、SLVsをLondon型、Sapporo型、Parkville型、Stockholm型の4 genotypeに分類し、大部分の株はLondon型またはSapporo型に属すると述べている1)。今回検出した株とGenBankに登録されていた株について増幅領域の93アミノ酸残基の系統樹解析を行ったところ、散発性小児急性胃腸炎の4株はLondon型に分類され、集団食中毒症例のOB-00-3-3株は型別されなかった(図1)。なお、Stockholm型の株についてはポリメラーゼ領域のシークエンス・データがGenBankに登録されていないため系統樹解析に加えることができなかった。今回は、EMにて検出されたダビデの星と形容される古典的なカリシウイルスがSLVであるか否かを検討することを目的としたが、Vinjeらのプライマーセットはその目的に有用であった。
参考文献
1.Vinje, J., et al., J. Clin. Microbiol. 38:530-536, 2000
2.Ando, T., et al., J. Clin. Microbiol. 33:64-71, 1995
岩手県衛生研究所
齋藤幸一 佐藤 卓 熊谷 学 田頭 滋 菅原喜弘 小林良雄 宇佐美 智
岩手医科大学細菌学講座
堤 玲子 高橋清実 佐藤成大