複合レジャー施設の循環濾過式浴槽水を感染源とするレジオネラ症集団発生事例−静岡県
(Vol.21 p 188-188)

2000年3月下旬、静岡県西部の複数の病院からレジオネラ肺炎を疑う患者の検体の送付があり、当所では菌培養と尿中抗原検査を実施し、4名をレジオネラ症と確定診断した。これらの患者は、いずれも掛川市内の複合レジャー施設内のS温泉に入浴していたことから、直ちに管轄保健所にその施設への立入り検査を依頼するとともに、同行して採水等の調査を行った。浴槽水等14カ所のレジオネラ培養検査で、同一循環濾過装置を使用している浴槽水2カ所(露天ジャグジー:菌数57,000CFU/100ml、内湯:菌数88,000CFU/100ml)から患者と同型菌(Legionella pneumophila血清群1)が検出された。浴槽水分離株と患者分離株のRAPD解析結果(即日判明)およびパルスフィールド・ゲル電気泳動パターン(5日目に判明、のレーン1、2、3、5、6)が一致したことから、S施設の浴槽水をレジオネラ症患者の感染源と特定した。

本集団感染事例の概要をに示した。発症者は感染症新法の4類感染症として保健所に届出された50歳〜86歳までの23名(男21、女2)で、うち2名が死亡した。患者は3月2日〜4月4日までの約1カ月間にわたって発生した。感染推定日(入浴日)は2月下旬〜3月29日までの間で、潜伏期間は1日〜10日であった。S施設は本年2月11日にオープンした後、4月1日に営業を停止するまでの約50日間で約57,000人(1日平均約1,000人)の利用客があった。ナトリウム- 塩化物温泉を使用した27種類の浴槽をもち、5基の塩素殺菌機付きの循環式砂濾過装置で浴槽水を循環濾過し、換水は1週間ごとに行っていた。後日、レジオネラ属菌の検出された浴槽系統の塩素殺菌装置が充分機能していなかったことがわかり、これがレジオネラ属菌の増殖を招いたと推察されている。

今回のレジオネラ症集団発生時の患者の検査には、(1)喀痰や気管支肺胞洗浄液などの培養による菌の分離、(2)ペア血清による血清抗体価の測定、(3)レジオネラ尿中抗原の検出を併用したが、このうち、レジオネラの可溶性抗原をELISA法によって検出する尿中抗原検査キットは、感染初期から陽性反応が得られるなど感度も高く、短時間(約3時間)で定量的な判定もできる優れた検査法であった。また、1以外のいくつかの血清群のL. pneumophila、および他のいくつかのレジオネラ属菌にも反応性が報告されている。今後、病院等の医療機関での本検査法の普及が望まれる。

本事例の調査は中東遠保健所、志太榛原保健所、浜松市保健所、静岡市保健所、掛川市立病院、袋井市民病院、浜松医科大学等の協力を得て行われた。

静岡県環境衛生科学研究所
杉山寛治 西尾智裕 郷田淑明 増田教子 張 凡非 秋山真人 宮本秀樹

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