入浴施設を原因としたLegionellaによる集団発生事例−茨城県
(Vol.21 p 188-189)

2000(平成12)年6月、茨城県石岡市の循環濾過方式の入浴施設を感染源とするLegionella pneumophila血清群(SG)1による集団感染事例が発生した。

同施設は4月7日にオ−プンし、6月23日までに計15,995人(一日平均250人)が利用し、臨床症状や検査結果から43名が患者として診断され(3名死亡)うち24名の4類感染症の届け出がなされた(8月21日現在)。

患者2名と施設の浴槽水等の培養からL. pneumophila SG1を分離、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の結果、同一起源菌株であるとされ、入浴施設が原因となった感染であると結論した。

概要と経過:6月23日医療機関からレジオネラ肺炎を疑う患者の発生報告があった。調査の結果、石岡市の入浴施設を利用した複数の感染者の発生が確認され、集団発生の原因究明と再発防止の措置を適切かつ迅速に行うためレジオネラ症対策本部を設置し、県内の医療機関に対し診察時の注意喚起と情報提供を依頼するとともに疫学調査等を実施した。

43名の患者は5月20日〜6月23日にかけて施設を利用し、発症日は6月8日〜23日に集中し(潜伏期2〜13日)、発熱(38℃〜40℃)、喀痰、呼吸困難、頭痛、倦怠感等の症状を呈した。有症者の内訳は男26名、女17名で、平均年齢は62.4歳であった。

施設は屋内風呂2、サウナ2(1カ所はミスト)、寝湯、打たせ湯、露天風呂2(うち1カ所はジャグジー)の8浴槽を有し、循環濾過装置4台、自動塩素滅菌器4台が設置されていた。

しかし、施設は浴槽水の換水がほとんど行われておらず、補給水の供給も不足していた。屋内風呂および露天風呂の循環濾過水は、熱交換および塩素滅菌されるものと未滅菌の2系統に分かれて浴槽に流入していたなど、浴槽水の交換不足、塩素滅菌不十分、浴室の消毒不足等が複合的原因となってレジオネラ菌の増殖が起こり汚染源となったと考えられる。県は6月24日営業自粛を指導し、7月7日付けで公衆浴場法に基づく業務停止処分を行った。

患者の喀痰と咽頭ぬぐい液は培養(検体処理後BMPAα培地で培養後、L-システインを要求する株についてグラム染色、DNA-DNAハイブリダイゼーション、レジオネラ免疫血清によるスライド凝集反応を実施)とPCRを行い、尿中可溶性抗原の検出(Biotest, EIA法)、血清は単独またはペアをもちいて抗体価測定(マイクロプレート凝集法)を行った。また、施設の浴槽水等も培養とPCRを実施した。

検査結果:喀痰培養2検体からL. pneumophila SG1が分離(東邦大学)され、PCR 法で6名からL. pneumophilaに対するゲノムが検出された。尿中抗原は7名が陽性で、血清抗体価L. pneumophila SG1に対する有意上昇者は16名であった(重複)。

レジオネラ症防止指針の検出法に準じ、実施した施設の浴槽水等35検体から18菌株(L. pneumophila SG1、3、5、6およびL. micdadei)が分離され、9検体からPCR法により特異遺伝子が検出された。施設の屋内風呂2カ所、ミストサウナ、露天風呂などの浴槽水や濾材、ふき取り等からレジオネラ菌が検出され、汚染は入浴施設全体に及んでいた(表1)。

分離された患者由来株L. pneumophila SG1 2株と施設からの環境由来株(SG1)について、国立感染症研究所の検査法に準じ前処理した後、制限酵素SfiIで切断し、PFGEを行った。患者由来株2株と環境由来株11株のPFGEは同一の泳動パターンを示し(図1)、同一由来菌株であることが示唆された。施設の浴槽水循環系統の殺菌効果が不十分で、濾過器を中心とした循環系でL. pneumophilaが増殖し、浴槽水を汚染させたと推察された。

なお、今回の集団発生の調査は、土浦保健所、石岡市医師会病院、東京医科大学霞ヶ浦病院、東邦大学および県内各医療機関等の協力を得て行われた。

茨城県衛生研究所
増子京子 根本治育 藤咲 登 土井幹雄

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