山形県で続発したレジオネラ肺炎
(Vol.21 p 189-190)

感染症新法の施行によりレジオネラ症が全数届出の感染症となり、2000(平成12)年1月〜8月にかけて山形県内内陸部で8件本症の届出があった。これまでに1996(平成8)年に湯治後1人発症したという事例が報告されているのみで1)、県内におけるレジオネラ症の発生実態はこれまでほとんど不明であった。

患者発生状況:2000年1月31日、県内のA病院から1人のレジオネラ症発生届があった。患者は1999年11月中旬に肺炎となり、民間の検査所で実施した検査で血清抗体の上昇を確認し、届出となったものである。2000年4月にA病院から3人のレジオネラ肺炎を疑う患者の検査依頼が衛生研究所にあった。3人中2人は尿中レジオネラ抗原陽性(Biotest)でレジオネラ症として届出された。その後、数カ所の病院から15人のレジオネラ肺炎を疑う患者の検査依頼があり、5月にB病院から1人、6月にC病院から2人、D病院から1人、8月にA病院から1人、計5人の尿中レジオネラ抗原陽性者が確認された。

レジオネラ症と診断された8人は全員男性で、年齢は40代2人、50代2人、60代4人。いずれも難治性の肺炎で、39℃以上の高熱がみられたほか、神経症状の認められた例(3人)もあった。

病原検査:5人から喀痰が採取されたが、レジオネラ属菌が分離されたのは1人のみであった。分離菌はLegionella pneumophila血清群(SG)1であった。

尿中レジオネラ抗原は患者8人中6人で陽性であった。陽性6人の尿は8病日〜43病日の検体であった。最初に届出のあった1人は陰性で、200病日以上の検体であった。残りの1人は7病日の検体で陰性であったが、10倍濃縮したところ陽性を示した。レジオネラ症が否定された肺炎患者(9人)および健常者(10人)の尿を10倍濃縮して測定したが、OD値の上昇はみられなかった。

血清抗体は間接蛍光抗体法およびマイクロプレート凝集反応により測定した。8人ともSG1に対する抗体の上昇がみられた。抗体の上昇は20病日前後から確認された。

疫学調査:最初に届出のあった患者の推定される感染原因は、X町の温泉であることが届けられた。所轄保健所では2月に同施設を立ち入り調査し、衛生指導を行うとともに、6浴槽のレジオネラ菌の検査を行った。1浴槽からL. pneumophilaが100CFU/100ml以下検出され、血清群はSG4であった。その後4月に届出のあった患者2人についても、推定される感染原因としてX町の同一温泉施設であると届出があり、4月末保健所は再度立ち入りを行った。12浴槽のレジオネラ菌の検査を行ったところ、浴槽によりL. pneumophilaの多い浴槽(4浴槽:10,000〜1,000CFU/100ml)と検出されない浴槽(8浴槽)が認められた。分離されたコロニーを数個拾い血清にあたったところ、分離されたL. pneumophilaはSG4、5、6、UTであった。患者から分離された菌がSG1であることから、SG1株の分離を再度試みたところ、約80コロニーに1コロニー程度の割合でSG1が分離された。3浴槽から16株のSG1を分離し、この16株と患者由来株をSfiI消化後パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った。浴槽由来株は2つのパターンに分類されたが、患者由来株とは明らかに異なるパターンを示した。また、過去に県内の温泉から分離されたSG1(10株)をPFGEしたところ、8パターンに分類されたが、患者由来株と同じパターンを示すものはなかった。以上のことから、X町の温泉施設と患者との関連を支持する結果を得ることはできなかった。

その後、この温泉施設では一般的な衛生管理のほか、塩素消毒の使用、L. pneumophilaが多く検出された打たせ湯、気泡湯を廃止するなどの改善を行っている。

まとめ:今回レジオネラ肺炎が続発したが、感染の原因となった施設の特定には至らなかった。

レジオネラ症の早期診断法として、尿中レジオネラ抗原の検出は有意義なものであった。疑わしいものについては尿を濃縮して検出する意義も大きいと思われる。一方、抗体の上昇確認には3週間程度要する例が多かった。

患者の早期診断とともに患者からの菌分離は疫学調査を進める上で重要となる。今回、患者から菌分離できない事例が多かった。一般的に患者は近くの開業医を受診し、総合病院を紹介されるケースが多く、レジオネラ症を疑う時点が遅くなり、結果として菌分離率が低くなっていると思われる。

臨床、検査、衛生指導の各部門がお互いに連携をとり対応していくことが新たな感染を防止する上で重要と考えられる。

参考文献
1)八鍬 直:湯治後発症し、外来で救命し得たレジオネラ肺炎の1例、山形県医師会会報,557,34-37,1998

山形県衛生研究所
大谷勝実 菅原裕美子 須藤正英 村山尚子 早坂晃一

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