医療機関で発生した腸管出血性大腸菌O157:H7 による集団感染事例−富山県
(Vol.21 p 193-194)

2000年5月、富山県内の医療機関において腸管出血性大腸菌O157:H7(以下O157)による集団感染症が発生した。この集団感染では、検食および食材(レタス)それぞれ1検体からO157が検出された。事例の概要は以下のようであった。

感染者の発生状況:5月24日、中部保健所管内にある医療機関の医師より、定期検便において調理員1名から大腸菌O157が検出されたと届け出があった。管轄保健所でベロ毒素を検査したところ、VT1、VT2遺伝子が確認された。翌25日、同じ定期検便において、調理員3名からO157が検出されたとする追加報告があった。この結果をうけて、中部保健所は調理員をはじめとする医療機関職員、入院患者、退院患者および感染者家族等455名について検便を行った。その結果、新たに調理員3名、入院患者5名、退院患者2名、調理員の家族1名の感染が確認された。これら感染者15名はいずれも無症状であった。その後の接触者検便(290名)ではすべてO157陰性であった.

検食および食材の検査:中部保健所が調査を行ったところ、調理員の家族を除く感染者に共通性の高い食事は医療機関の給食であった。なかでも調理員に共通の食事は5月18日の昼食のみであったことから、18日の給食を中心に、食品182件、食材41件について原因菌の検索を行った。はじめに検体をトリプチケースソイブロス(TSB)で10倍乳剤とし、(1)37℃、6時間前培養、(2)前培養液1mlをノボビオシン加mEC 培地に接種し、42℃、20時間培養、(3)クロモアガーO157、レインボーアガーおよびCT-SMACに塗抹培養の手順で行った。途中(1)、(2)時点で、それぞれの培養液についてNOW(アスカ純薬)とReveal(NEOGEN Co.)を用いて検査した。(1)の培養液についてはすべて陰性であったが、(2)の培養液では2検体が陽性反応を示した。陽性を示した2検体についてPCR法でVT遺伝子を確認すると同時に免疫磁気ビーズ(IMS法)によるO157の分離を試みた。その結果、検食1検体とその食材のレタスからO157:H7(VT1, 2保有)が培養液(1)でも(2)でも検出された。

分離菌のPFGEと疫学調査:感染者、検食およびレタスから分離されたO157計13株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動によるDNA の制限酵素(XbaI)切断パターンを調べたところ、そのパターンはすべて一致した(図1)。

一方、疫学調査により、医療機関の給食は献立の種類が大変多く、感染者が必ずしも同じ調理食品を食べていないことが判明した。実際、感染者のうち、入退院患者はいずれも5月18日、昼に提供されたO157の検出された調理食品(レタスを含む)を食べていたが、調理員はその調理食品もレタスも食べていなかった。

これらの結果から、入退院患者7名は18日の昼食により感染した可能性が高いと考えられた。また、調理員の家族は医療機関の給食を全く食べていなかったので、家庭内での二次感染であったと推定した。しかし、調理員7名は入院患者らと同じ食材で感染した可能性が高いものの、同日昼の献立のうち、レタスおよびその調理食品を食べていなかったことから、原因食を特定できなかった。また、レタスについて検食・食材の他に同じ産地のものを含む12件を検査したが、いずれからもO157は検出されなかった。よって、18日昼食の食材のレタスがどの時点で汚染されたのか究明することはできなかった。

富山県衛生研究所 磯部順子 田中大祐 細呂木志保 西坂美和子 北村 敬
富山県中部保健所 安井良夫 齊藤尚人 今井茂憲 加藤一之

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