成人患者もみられた無菌性髄膜炎の地域流行−滋賀県
(Vol.21 p 197-198)
2000年5月16日、滋賀県感染症発生動向調査(県患者情報)の定点医療機関の医師から保健所に、「成人の無菌性髄膜炎(AM)患者が多い」との連絡があったことから、積極的疫学調査に入った。定点医療機関以外の情報も収集するため、彦根医師会会員全員および管内の入院施設のある3小児科に、AMと診断された患者のイニシャル、年齢、住所、入院月日などの情報提供を要請した。さらに、北部に隣接する保健所管内の1病院(小児科)に入院している患者について、疫学的背景を問い合わせた。対象となった地域は県東部に位置し、中核都市1市を含む7町、人口約15万人である。本報告は7月末までのデータである。
情報提供を受けた患者の数は、管外1名を含む成人28名、未成年者54名であった。患者発生は2000年11週〜30週までで、増加は19週から始まり24週をピークとし、主たる流行は20週〜26週、主に6月であった(図1)。成人患者は7月にはみられなくなった。滋賀県には7保健所があるが、患者が多発した20週〜26週における県患者情報のAM患者数合計は、当該保健所以外では2.5人/定点、当該保健所管内では29人/定点と、地域的な偏りがみられた。管内の小学校は32学区あるが、患者居住地を学区別にみると、未成年患者数の最も多い学区は2学区あり、それぞれ8名であった。そのうちの1学区は、成人患者数が最も多く、10名であった。患者の年齢分布は10歳未満が多いが、成人患者では、未成年患者の親の年齢層にあたる30代が多かった(表1)。一部の成人患者からは家族の感染状況が得られ、家族内感染を思わせる例がみられた。夫婦ともに、あるいは31歳患者の場合は、別に住んでいる実妹(28歳)と実母もAMを発病、さらに子供に次いでAMを発病した母親の例があった。また、上気道症状や腹痛・下痢などの胃腸炎症状を示した患者もあった。
5月および6月に発病したAM患者14名について、髄液および咽頭ぬぐい液を用いてウイルス培養検査を実施した。5月の5名中2名、6月の9名中3名、計5名からエコーウイルス18型(E18)が分離され、他のウイルスは分離されなかった。年齢別では、10歳未満2名中1名、20代4名中1名、30代6名中2名および40歳以上2名中1名から分離された。材料別の内訳は、髄液13件中4件、咽頭ぬぐい液10件中1件からウイルスが分離された。ウイルス分離にはRD-18S、HeLa、Vero、FLの各細胞を用いて培養を行い、一部Veroでも分離されたが、ほとんどはRD-18Sで分離された。ウイルス同定のための中和反応には、国立感染症研究所から分与された抗血清EP-95 を用いたが型別されず、デンカ生研製のプール抗血清のMおよび単味E18で型別された。
過去、滋賀県ではE18分離例は少なく、1988年に6株および1989年に3株あった後、1998年から毎年若干分離され、2000年に入ってからは2月に痙攣重積の幼児から1株分離されている。また、エンテロウイルスの流行シーズンに入ってからは、北部に隣接する保健所管内で、6月に2名から分離されているが、1名は発熱・上気道炎、他1名は症状不詳であった。
滋賀県立衛生環境センター
横田陽子 大内好美 吉田智子 辻 元宏
滋賀県彦根保健所
古池栄子 藤田悦子 角野文彦