日本のポリオ
(Vol.21 p 214-216)
わが国では1947年「伝染病届出規則」が制定され、ポリオ患者の実態が把握されるようになった。1960年のポリオの大流行は北海道に始まり全国規模のものとなり、戦後最大、最悪の感染症流行となった。1961年に輸入生ワクチンの緊急投与が行われ、1962、63年と全国の生後3カ月〜12歳までの小児に一斉投与された。そして1964年以降は生後3カ月〜48カ月の間に春、秋2回の定期接種が確立した。その結果、ポリオ患者は激減し、現在までに完全に制圧されている(図1)。
1988年からスタートしたWHOの世界ポリオ根絶計画は着々と進行している。この計画とは、まず急性弛緩性麻痺(Acute Flaccid Paralysis: AFP)の患者を見出し、そこからポリオウイルスを分離する。そして野生株が分離されなくなることをもって、世界レベルでポリオウイルスが野生株のウイルスからワクチンウイルスに置き換えられたこととする。このようなウイルスサーベイランスと強力なワクチン投与が、この計画の2本の柱である。計画の当初は、ポリオ患者をしらみつぶしに探し出し、そして臨床的に診断された患者の減少をもってポリオの根絶に立ち向かったものであった(図2a)。しかし計画の後半からは、図2bに示すようなウイルス学的な実験室診断が基本原則となった。
WHOに報告されているポリオ患者の発生は着々と減少し、いまやpolio-freeの国々が大半を占めるようになった(図3)。特に南北アメリカからは1991年以降、野生株によるポリオ患者は1人も発生していない。さらに我々の属する西太平洋地域は、1997年3月カンボジアの患者を最後として、それ以降野生株は分離されていない。2000年8月、マニラで第5回のポリオ根絶認定委員会が開かれ、各々の国での根絶委員会の報告を受け、検討がなされた。WHOが設定する地域の根絶の条件として、野生株が3年以上患者から分離されないこと以外にも、AFPがきちんと報告されウイルス検査がなされているか、適切な便が採取され検査されているか、ラボラトリーは適切に機能しているか等についても詳細に検討された。
わが国ではたしかに、1981年以降麻痺患者からは野生株ポリオウイルスは分離されていない。わが国ではWHO方式のAFPサーベイランスシステムを導入する以前に野生株の伝播は1960年後半に断ち切られ、ポリオは制圧されたと考えられている。しかし、今回の根絶認定の条件がわが国でも満たされていることを確認するため、1997年わが国でも根絶委員会が組織され、全国レベルのポリオ様疾患発生動向調査を確立させるとともに、ポリオとの鑑別を要する非ポリオ麻痺疾患の中に、本当にポリオが紛れ込んでいないことを確認する後方視的、前方視的調査を、全国6カ所において1997年〜2000年3月まで行った(本月報Vol.19、No.5参照)。表1に1999年1月〜2000年3月までの前方視的調査の結果をまとめた。
わが国におけるAFP率も10万人につき1.0を超えている。わが国で真性ポリオを見逃していることはないと考えられ、西太平洋地域事務局では2000年10月京都において、地域レベルの根絶の宣言を行う予定である。地域レベルの根絶宣言が出ることは、世界レベルの真の根絶が達成されるまでの、あくまでも1ステップである。今後特にわが国では以下のことが重要と考えられる。
(1) わが国では表2に示すように、ポリオ例はワクチン関連症例である。現在のワクチン関連麻痺(VAPP)発生の頻度は想定される範囲内にあるが、ポリオコントロールの最終段階になっても、このVAPP発生を許容できるかの検討を十分行う必要があると同時に、真のVAPP例をきちんと診断、対応することが必要である。
(2) わが国の周囲にはまだ野生株を有している国々がある。野生株の侵入に対しての検出と対策を十分たてておく必要がある。
(3) ポリオ野生株が残っているのは、わが国においては研究室である。WHOはこの野生株の保持リスト作成と管理を勧告している。わが国ではホームページ<http://www.c-linkage.co.jp/polio>を立ち上げ、登録を開始した。
国立感染症研究所ウイルス第二部 宮村達男