平成12年度(2000/01シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株の選定について
(Vol.21 p 265-265)

2000年2〜3月にかけて、国立感染症研究所において2000/01シーズンインフルエンザワクチン製造株の選定会議が3回開催された。その際には、同年2月に行われたWHOワクチン株選定会議の討議内容と推奨株の性状、国内のインフルエンザ流行状況、分離ウイルスの抗原解析および遺伝子解析の成績、免疫誘導能、発育鶏卵での増殖性等が検討された。これらの成績を総合的に検討して、来シーズンの流行予測を行い、それに基づいたワクチン製造株を選定し、その結果を厚生省に報告した。

 1)A/New Caledonia/20/99(H1N1) (IVR-116)「ソ連型」:わが国ではA/ソ連型ウイルスは1995/96シーズン以来流行の主流とはなっていなかったが、1999/2000シーズンにはA/香港型ウイルスとともに混合流行を起こし、インフルエンザ流行の主流を形成した。世界的には大きな流行は見られなかったが、国内外ともに1999/2000シーズンのワクチン株であったA/Beijing(北京)/262/95とは抗原性の異なるA/New Caledonia/20/99様ウイルスの割合が増えてきており、今後A/ソ連型としてはA/New Caledonia/20/99類似のウイルスが流行の主流となることが予想される。そこでWHOでは、2000/01シーズンのワクチンとしてこの株を推奨した。A/Beijing(北京)/262/95を使用した1999/2000シーズンのワクチン接種者の抗体応答は、ワクチン株であるA/Beijing(北京)/262/95には高い抗体応答を示したが、A/New Caledonia/20/99には低い応答であった。従って、2000/01シーズンのA/ソ連型のワクチン株として、A/New Caledonia/20/99および同じ性状を示す高増殖性株A/New Caledonia/20/99(IVR-116)が選定された。

 2)A/Panama/2007/99(H3N2)(NIB-41)「香港型」:1999/2000シーズンを含めて3シーズン連続してA/Sydney/5/97に代表されるA/香港型ウイルスが、国内外ともに流行の主流を形成した。A/Sydney/5/97はワクチン株としても2シーズン連続して使用され、感染症流行予測調査事業による抗体保有状況の調査結果でも、広い年齢層が既にA/Sydney/5/97に対する抗体を保有していることが明らかにされ、今後同ウイルスによる大きな流行は起こらないことが予想される。一方で、A/Sydney/5/97とは抗原性が4倍程度異なるA/Moscow/10/99を代表株とする変異株が世界各地で出現しており、わが国においても今後この系統のウイルスが流行することが予想される。

A/Sydney/5/97を使用したワクチンではこれらの抗原変異株に対しては低い抗体応答しか誘導できないが、A/Moscow/10/99によって誘導された抗体は、A/Moscow/10/99類似の抗原変異株およびA/Sydney/5/97に対しても同程度の交叉免疫性を示した。従って、A/Moscow/10/99類似株を次シーズンのワクチン株とすることがWHOからも推奨された。しかし、A/Moscow/10/99株は発育鶏卵での増殖が悪いためにワクチン製造株としては適しておらず、増殖性等のワクチン製造効率も考慮した結果、A/Moscow/10/99と類似の性状をもつA/Panama/2007/99株の高増殖性株A/Panama/2007/99(NIB-41)がA/香港型のワクチン株として選定された。

 3)B/Yamanashi(山梨)/166/98 :ここ数年、日本を含めて東アジア地域ではB/Yamagata(山形)/16/88およびB/Victoria/2/87に代表される2系統のウイルスが同時に流行していた。しかし、1999/2000シーズンには国内ではB型ウイルスの流行はほとんど見られず、分離された9株のウイルスは前者の系統に属するB/Yamanashi(山梨)/166/98に類似していた。また、海外でもB/Yamanashi(山梨)/166/98に類似したウイルスが大部分を占めていた。B/Yamanashi(山梨)/166/98のワクチンの接種者は、B/Yamanashi(山梨)/166/98のみならず、もう一方の系統に属する昨シーズンのワクチン株B/Shangdong(山東)/7/97に対しても比較的高く免疫応答を示した。従って、交叉免疫誘導能や発育鶏卵での増殖性等も考慮して、B型のワクチン株として、B/Yamanashi(山梨)/166/98が選定された。

国立感染症研究所ウイルス製剤部 田代眞人

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