(診断するうえで)らい菌の検出の意義
(Vol.22 p 3-4)

感染症の診断では病原菌の培養・同定や薬剤感受性検査が基本であるが、らい菌は人工培地での培養ができないため、病変組織の抗酸菌染色や免疫染色およびPCR 検査による病原菌の検出によって菌学的診断を行う。

ハンセン病の病型診断はRidley & Joplingによる免疫学的分類(2型2群)と菌学的分類(2型)等によりなされ、これらの病型分類に基づいて治療方針(化学療法)が決定される。一般的には菌学的分類(2型)に基づき多菌型(MB)と少菌型(PB)に対する一定の化学療法が行われる。また免疫学的分類が可能な医療施設ではWHO 推薦処方(多剤併用療法:MDT)に多少の修正が加えられた治療が行われることが多い。菌学的分類は皮疹スメア(皮膚組織の塗抹標本)の抗酸菌染色標本中にらい菌が観察されるか観察されないかにより(菌の多少には関係なく)MBとPBに大別するものである。従って、この分類はややラフであるが臨床的に大きな問題はないと思われる。以上のように、らい菌が光顕的に観察できるか否かが治療方針を決定する根拠となっており、らい菌の検出は大変重要な検査である。

一方、同疾患が鑑別疾患として念頭にあれば皮疹の性状や分布から臨床診断は比較的容易である。また大部分の症例で知覚異常感や知覚障害および末梢神経肥厚などの末梢神経炎症状を伴い、診断の有力な根拠となる。さらに皮膚病変部の病理組織を観察できる場合は病型まで診断がほぼ可能である。しかし、このような場合でも治療効果の判定や薬剤耐性菌の早期発見のためには経時的な菌学的検査による菌量と形態(らい菌の生死の大まかな判定)のチェックが是非とも必要である。さらに病理組織像からの病型診断とらい菌の菌量が一致せず、一般的な治療方針に修正が必要なケ−スが見られるため抗酸菌染色による菌学的検査は大切である。また、末梢神経内に存在する抗酸菌はらい菌のみであり、組織抗酸菌染色標本で末梢神経内に抗酸菌を観察することは病理組織学的にハンセン病と診断を確定する根拠となりうる。

なお、本邦では極めて稀な未定型群(I群)の場合は、皮膚病変や病理組織像における特異的所見が乏しいことが多く、さらに知覚障害などの末梢神経症状が軽微であり診断に迷うことが多い。従って、この病型ではPCR検査による菌学的診断が決め手となることが多いと考えられる。ただし標本の切り出しの際のミクロトームやクリオスタットの刃などを介するコンタミネーションには十分の注意が必要である。

らい菌の主たる排菌・感染経路として上気道粘膜部が考えられ、特に未治療のLL型やBL型などの非常に菌量が多い病型では鼻汁スメアでらい菌が検出されることが多く、感染源であった可能性を知ることができる。乳幼児(細胞性免疫が確立していない年齢)がそのような患者と接触する機会が多かった場合は、感染・発症の可能性がある。なお、リファンピシンを投与後は、らい菌の感染性は消失するため前述のような心配はないとされている。

以上から、ハンセン病の診断・治療において菌の検出・観察の意義を次のようにまとめることができる。

 1)菌学的病型の診断と治療方針の決定。
 2)治療経過中の化学療法の有用性のチェックおよび薬剤耐性菌の早期発見。
 3)鼻汁塗抹標本による感染源のチェック。
 4)未定型群(I群)などの抗酸菌染色陰性症例におけるPCR法による菌学的診断。

琉球大学医学部皮膚科学教室 細川 篤

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