マレーシア・ボルネオ島で感染したレプトスピラ症の1例
(Vol.22 p 5-6)

レプトスピラ症はLeptospira interrogans によって起こる人獣共通感染症である。今回我々はマレーシア・ボルネオ島で感染し、患者からの情報が診断に有用であったレプトスピラ症の1例を経験したので報告する。

症例:25歳、男性。主訴は発熱、頭痛。2000年8月16日〜9月4日までマレーシア・ボルネオ島サバ州にて仲間3人とともに耐久レースに参加した。9月7日より悪寒とともに38〜39℃台の発熱が出現した。同行者が発熱にて同8日に当院に入院したため、9日当院受診、入院となった。破傷風、狂犬病、ジフテリア、A型肝炎ワクチン接種済み。マラリア予防内服せず。入院時体温37.9℃、脈拍90/分・整。球結膜に貧血・黄染はないが、充血を認めた。表在リンパ節触知せず。胸・腹部異常所見なし。皮膚発疹なし。神経学的に異常所見なし。検査所見ではWBC 13,100/μl(好中球91%)、Hb 14.8g/dl、Plt 19万/μl、T.Bil 0.5mg/dl、GOT 63IU/l、GPT 66IU/l、LDH 420IU/l、BUN 12.5mg/dl、Cr 0.9mg/dl、CRP 17.8mg/dl であった。末梢血塗抹標本上マラリア原虫陰性、血液、糞便培養で有意菌は検出されなかった。海外において耐久レース参加者がレプトスピラ症を発症したとの主催者情報が患者から得られたため、国立感染症研究所細菌部にて9月11日に採取した検体を用いてレプトスピラの検査をしたが、抗原、抗体とも陰性であった。39℃台の発熱が持続するため、レプトスピラ症の臨床診断で12日よりミノサイクリン(MINO)200mg/日の点滴静注を開始したところ14日以降解熱した。MINOは1週間継続し退院、その後ドキシサイクリン 200mg/日を2週間経口投与した。9月28日に感染研で再検したところ、Leptospira interrogans serovar hebdomadisに対する抗体が160倍と陽性となり、レプトスピラ症と確定診断した。

考察:マレーシア・ボルネオ島で感染したと考えられるレプトスピラ症の1例を報告した。患者からの情報によりレプトスピラ症を疑い、初回の検査では陰性であったが、ペア血清により抗体価の上昇を確認した。感染症が国際化している現在、その診断においては発生状況などに関する迅速な情報収集が重要であると考えられた。

横浜市立市民病院感染症部 坂本光男 相楽裕子
国立感染症研究所細菌部  小泉信夫 渡辺治雄

IASR編集委員会註:国際旅行医学会(ISTM)では米国CDCのサポートを受け、世界26カ所の定点(熱帯病専門医療機関、あるいはトラベルクリニック)を対象にGeoSentinelと称する旅行者疾患のサーベイランスを行っている。2000年9月11日にそのGeoSentinelからISTMに向け、ロンドン、ニューヨーク、トロントのそれぞれの定点にて、8月20日〜9月1日にボルネオで開催されたEcoChallenge冒険レースの参加者合計9名がレプトスピラ症の症状を呈していることが報告された。症状・徴候としてはタンパク尿、膿尿、発熱、軽度肝酵素の上昇、CK上昇、筋痛、特徴的な発熱などであった。その後、他にも15名が同様な病気に罹患していることも判明した。

この結果をもとに9月11日、ISTMは会員に向けて電子メールにて、自国の医師に広くこの情報を伝えるよう要請した。また、ProMEDにおいてもこのレースの参加者に呼びかける形で、医療機関を受診するときにこの情報を伝えるよう、また検査結果が出る前でも、疑わしければレプトスピラ症としての治療を受けるよう伝えられた。わが国でも直ちに旅行医学あるいはサーベイランスの関係者が反応し、旅行医学関係のメーリングリストであるJOHAC Forumを通じて情報が広く医療従事者に流され、また、厚生省結核感染症課へも情報提供がなされた。

このレースには26カ国から78チームの参加があった。競技は4人1組となり、6〜12日間かけてジャングルトレッキング、カヌー漕ぎ、カヤック漕ぎ、峡谷下り、スキューバダイビング、マウンテンバイキング、洞窟探検などを行うものである。8月25日からは現地の川は大洪水の状態であった。

結局、米国では9月15日の段階で37症例(うち入院12例、2例が検査で確定)、フランスでは9月21日の段階で4症例(うち1例が検査で確定)、英国では9症例などが明らかになった。

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