2000年度感染症発生動向調査におけるRhinovirusの検出−横浜市
(Vol.22 p 34-35)
感染症発生動向調査において本年度から、通常のウイルス分離検出に加えてRhinovirus-Enterovirus検出用PCR法を導入したところ、16件のRhinovirus遺伝子を検出することができたので報告する。
市内6カ所の小児科内科病原体定点から、2000年4月4日〜12月26日までの間に咽頭ぬぐい液573件、うがい液1件、糞便8件の合計582件の検体が搬入された。検体は継代細胞、乳飲みマウスによる分離のためにそれぞれ通常の方法で処理されるが、その一部を遺伝子検出に供した。検体よりウイルスRNAを抽出し、RT-Nested-PCR法によって、5’UTR-VP4領域のDNAを増幅した。RhinovirusはEnterovirusと共通のプライマーで増幅することが可能であり、また5’UTR領域が約120bp短いため、その増幅されるバンドの大きさで区別できる。アガロースゲル電気泳動によりRhinovirusと思われるバンドが確認されたものは、ダイレクトシーケンス法を行い塩基配列を決定した。Rhinovirusであることの確認には、日本DNAデータバンク(DDBJ)のホームページを利用した。
その結果、16件のRhinovirus遺伝子を検出できた。Rhinovirusはすべて咽頭ぬぐい液から検出された。患者情報を表にまとめる。月別の患者数は5月6人、6月5人、10月2人、11月3人であり、春季と秋季に流行するという従来の疫学と一致した。年齢は3カ月〜31歳まで幅広く確認された。臨床診断は咽頭炎、気管支炎が多数を占めた。患者の体温は37.2〜40.1℃(平均は38.4℃)であり、あまり高い発熱は認められなかった。Rhinovirus陽性検体から重複して検出されたウイルスはAdenovirus、Parainfluenza virus 、Poliovirus、RS virusであった。ウイルスが重複して検出されたこれらの患者は高い発熱を示す傾向にあった。
検出されたRhinovirus遺伝子はそれぞれ、Rhino1B、2、16、89と高いホモロジーを示し、系統樹においてもRhinovirus群はEnterovirusとは別のクラスターを形成した。しかしウイルスを分離することはできなかった。
Rhinovirus-Enterovirus検出用PCRにより、検体搬入の翌朝にはウイルス遺伝子の有無が確認でき、その後の分離同定の際に指標として役立った。分離の困難なRhinovirusの検出には特に有効であり、分離陰性の検体から遺伝子を検出することができた。Rhinovirusは鼻腔粘膜が主要な感染経路であるため、鼻汁の採取が可能であればより多くのウイルスを検出することができたと思われる。
この研究の一部は平成12年度財団法人横浜総合医学振興財団- 学術研究助成によって行った。
横浜市衛生研究所検査研究課
宗村徹也 七種美和子 川上千春 野口有三 藤井菊茂