マラリアの抗原診断
(Vol.22 p 26-27)

マラリアの抗原診断を迅速かつ簡便に行う定性試験法として、免疫クロマトグラフィー(サンドイッチ法)を用いた4種類のキットが開発されている。それらのうち、ParaSight Fはすでに発売が中止された。ICT Malaria P.fは、熱帯熱マラリア原虫の抗原のみを検出するように開発されており、ICT Malaria P.f/P.vとOptiMALは熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫の共通抗原も検出できる。したがって、ここでは、今後広く使われていくと考えられるICT Malaria P.f/P.vとOptiMALを中心に述べる。

ICT Malaria P.f/P.vはカード型で、熱帯熱マラリア原虫に特異的な抗原であるhistidine rich protein II (HRP-2)に対する抗体と、熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫の共通抗原に対する抗体を用いている。2種の抗体は、試験紙上にそれぞれ線状に固相化されており、また、sample padには、金コロイドで標識された抗体が添加されている。1と2のバンドのうち、1のみ、あるいは両方のバンドが認められた場合に熱帯熱マラリアと判定し、2のみ認められた場合に三日熱マラリアと判定する。必要血液量は15μl、検査の所要時間は10分程度である。HRP-2は、熱帯熱マラリア原虫から血漿中に放出される循環抗原である。ParaSight Fもこの抗原を検出するキットであるが、リウマトイド因子陽性の場合には、偽陽性が67%程度に認められるという欠点があることが明らかとなった。ParaSight Fでは、IgGモノクローナル抗体を用いていたのに対し、ICT Malaria P.f/P.vでは、IgMモノクローナル抗体を用いることによって、リウマトイド因子の存在下で偽陽性反応が起きにくいように改良が加えられている。HRP-2を検出するキットは、治療によって原虫が消失した後も、長期間陽性が続く傾向がある(長い場合には1カ月以上)ので、熱帯熱マラリアの治療効果の判定に用いることができない。ICT Malaria P.f/P.vの感度と特異性に関しては、マラリア流行地のインドネシアで行われた評価で、熱帯熱マラリアに対しては、それぞれ、96%と90%、三日熱マラリアに対しては75%と95%という成績が報告されている。三日熱マラリアに対する感度が低いが、原虫の多寡に左右されており、血液1μl当たり500以上では96%で、500以下では29%である。慈恵医大熱帯医学教室で、輸入マラリアにおいて行った成績では、感度は、熱帯熱マラリアで100%、三日熱マラリアで89%であった(表1)。血液塗抹標本でマラリア原虫が認められないにもかかわらず ICT Malaria P.f/P.vが陽性の5例は、マラリアの治療後に検査しており、血液中に遷延して存在している抗原を検出していると思われ、熱帯熱マラリアに対する特異性はこれまでのところ100%と考えられる。

OptiMALは、マラリア原虫に特異的な乳酸脱水素酵素(pLDH)を検出するdip stickである。熱帯熱マラリア原虫に特異的なpLDHに対する抗体と、ヒトに感染する4種のマラリア原虫に共通のpLDHに対する抗体が試験紙上に別々に固相化されており、悪性マラリアである熱帯熱マラリアと良性マラリアである他の3種のマラリアを区別して診断することができる。必要血液量は10μl、検査の所要時間は10〜20分である。ロンドンで行われた輸入マラリア症例における評価では、感度と特異性が、熱帯熱マラリアでは、それぞれ、95%と100%、三日熱マラリアでは、96%と100%という良好な成績が報告されている。また、pLDHは原虫の死滅にともなって、すみやかに血液中から消失するので、治療効果の判定に有用であると推察される。

血液塗抹ギムザ染色標本の検鏡が、マラリアの標準的な検査法であり、種の鑑別ができ、原虫密度と形態(発育段階、治療後の破壊像等)の推移を知ることができるため、病勢と治療効果を評価するうえで不可欠であり、また、熟練した者であれば、感度も抗原検出キットより高いと考えられる。しかしながら、熱帯熱マラリアは可及的速やかな治療の開始が必要な疾患であることと、抗原検出キットによる検査の習熟と実施が血液塗抹検査に比べてはるかに容易であることを考えあわせると、キットを用いたマラリアの抗原診断は非常に有用と思われる。

東京慈恵会医科大学熱帯医学教室 熊谷正広

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る