検疫所におけるマラリア検査
(Vol.22 p 27-27)
わが国の輸入マラリア症例は増加傾向にあり、特に熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum:以下Pf )においては重症化し、死亡する例も散見されるため注意を要する。しかし、マラリアは現在わが国に常在しないため、早期発見、早期治療が十分に行われる体制となっていない。このため、流行地からの渡航者が多く利用する主要空港の検疫所[成田空港検疫所、関西空港検疫所については1997(平成9)年10月から、名古屋空港検疫所支所、福岡空港検疫所支所については1998(平成10)年4月から]において、マラリア感染者の実態調査および早期発見、早期治療に繋げるための研究事業として、マラリアのスクリーニング検査を実施している。さらに、感染が疑われた場合には、適切な診察を受けるよう専門の医療機関を紹介している。
検査対象者:検査対象者に関しては、感染様式、潜伏期間等を勘案し、マラリア流行地域に1泊以上滞在し、1週間以上経過して発熱があり、本研究の趣旨を理解して検査を希望する入国者で、十分なインフォームドコンセントが得られた者とした。
検査方法:検査方法としては、簡便かつ短時間で判定可能なこと、および検査精度の高いことを基準に、抗原迅速検査法および原虫検鏡検査法を採用した。抗原迅速検査法ではPf 原虫および三日熱マラリア原虫(P. vivax:以下Pv )の抗原を検出し、マラリア原虫検鏡検査法では4種の原虫(Pf 、 Pv 、 四日熱マラリア、 卵形マラリア)を検出する。
1.抗原迅速検査法(いずれも国内未市販)
1)ParaSight F;BECTON DICKINSON社製:ParaSight Fは、Pf が特異的に分泌するヒスチジン・リッチ蛋白II (PfHRP-2)を迅速に検出する方法であり、マウス抗体で抗原(PfHRP-2)を捕捉し、色素標識ウサギ抗PfHRP-2抗体を反応させるサンドイッチ法で、Pf のみを特定する検査キットである。
2)ICT Malaria P.f/P.v;AMRAD社製 (1999年10月以降使用):これは、ParaSight Fと同様にマラリア原虫の放出する抗原PfHRP-2を検出する検査キットである。また、Pf マラリア原虫抗原に加えPv マラリア原虫抗原も同時に検出できる。
2.マラリア原虫検鏡検査法:マラリア原虫検鏡検査法としては、血液塗沫標本をアクリジン・オレンジ染色法およびギムザ染色法で染色した後、顕微鏡でマラリア原虫を検索し、その形態を観察する。
検査結果:1997年10月20日〜2000年12月26日の間、4空港検疫所で検査を受けた者は247人であった。その247人のうちマラリア検査陽性者はPf :8人、Pv :2人の計10人であった(表)。
成田空港検疫所 松本泰治 河合誠義 増田和茂