C群ロタウイルスによる急性胃腸炎集団発生事例−佐賀県
(Vol.22 p 32-33)
2000年4月、佐賀県内の全寮制中高併設校においてC群ロタウイルスによる急性胃腸炎の集団発生がみられたので、その概略を報告する。
患者発生は4月18日に始まり、23〜24日をピークとして26日まで続いた(図1)。生徒数1,041名のうち有症者は生徒のみ309名で、全学年に及んだ。中1〜高1は高2、高3にさきがけて発症し、発症率は、高2、高3では10%程度であったが、中1〜高1では30〜50%と比較的高率であった(図2)。寮別では中1〜高1が居住するA寮が41%、高2、高3が居住するB寮が12%で、A寮が3倍以上高かった。全体では30%の発症率であった。有症者の主な症状は、嘔吐および嘔気が最も多く(63%)、次いで頭痛(51%)、37〜39℃程度の発熱(51%)、腹痛(41%)、下痢(38%)等で、これらの症状は3日〜4日で消失した。
患者発生の多かった4月23日〜24日に発症した患者の便、および5月1日〜2日に採取した調理従事者の便について、電子顕微鏡(EM)による観察を行ったところ、患者便23検体中16検体(70%)、調理従事者便33検体中1検体(3.0%)にロタウイルス粒子が観察された。RPHA法によるC群ロタウイルス抗原の検出では、患者便23検体中15検体(65%、EM陽性検体)、調理従事者便33検体中1検体(3.0%、EM陽性検体)が陽性であった。また、14検体の患者ペア血清について、RPHI法およびELISA法(一部検体)による抗体検出を行ったところ、5検体(36%)でC群ロタウイルスに対する有意な抗体上昇が確認された。C群ロタウイルスVP6 遺伝子検出RT-PCRでは、患者便3検体中3検体(100%、EM、RPHA陽性検体)が陽性であった。食品は、患者発生のピーク前3日分の給食17検体を用いてRPHA、RT-PCRを行ったがすべて陰性であった。
本事例は、当初C群ロタウイルスが検出された調理従事者から汚染された給食が原因かと思われたが、喫食状況調査の結果、共通食品は特定できなかった。この学校が全寮制であり、生徒は近接して居住し、風呂、トイレ等を共有していたことを考慮すると、主たる感染経路は食品を介さない直接的な伝播、いわゆるヒト→ヒト感染であると思われ、散発的な患者発生の間に感染者が蓄積し、その後何らかの原因で患者数が急増したと推察された。ウイルスの感染源および感染経路を特定することはできなかったが、同時期に近隣地区で急性胃腸炎散発事例の患者からC群ロタウイルスが検出されていることから、地域での流行があり、そこから持ち込まれたウイルスによって感染が拡大した可能性が考えられた。
C群ロタウイルスによる急性胃腸炎集団発生は、ここ10数年に10数例が報告されている(本月報Vol.20、No.9参照)が、そのほとんどが小学生における発生である。しかし、今回の事例は、より年長の中高校生における発生であり、また、成人における集団発生(本月報Vol.12、No.5参照)も報告されていることから、低年齢層だけでなく、あらゆる年齢層における発生の可能性を考慮する必要があると思われた。
最後に、PCRプライマーの分与およびELISA 法による抗体検査をしていただいた岡山県環境保健センター葛谷先生、疫学情報の収集および検体採取に御協力をいただいた佐賀中部保健所の関係各位に深謝いたします。
佐賀県衛生研究所
江頭泰子 吉森清史 舩津丸貞幸 松浦元幹