仙台市および山形市における呼吸器症状を呈したアデノウイルス感染症の流行、 2000年11〜12月
(Vol.22 p 33-34)

2000(平成12)年11月、12月に仙台市および山形市の医療機関を訪れた発熱および呼吸器症状を示す多数の小児から高率にアデノウイルスを分離したので報告する。

概要:国立仙台病院ウイルスセンターは、主に呼吸器系感染症の疾患を対象に、年間を通して広く地域の医療機関から臨床材料を受け入れ、マイクロプレートにまいた6種類の培養細胞への検体接種(マイクロプレート法)によるウイルス分離を行い、その成績に基づくウイルス感染症の疫学を長年にわたって行っている。例年12月にはインフルエンザウイルスの流行が始まり、昨シーズンは、仙台市では11月初めからH1N1亜型のインフルエンザウイルス分離がなされている。そのため、今シーズンも10月後半からインフルエンザに関し特に注目してきたが、これまでにウイルスセンターでのインフルエンザ分離は1件もなく、また仙台市、山形市とも2000年内(2000年12月27日現在まで)のインフルエンザウイルス分離の報告はない。しかしながら、高熱等インフルエンザの可能性も否定できない症状を呈する患者は、例年通り多数小児科を受診している。これらの患者の咽頭ぬぐい液を採取し、ウイルス分離を試みたところ、やはりインフルエンザは分離できなかったが、そのかわりにアデノウイルスの分離が目立って多くなった。

アデノウイルス感染症の流行:当ウイルスセンターのアデノウイルスの分離は、HEp-2あるいはhuman embryo fibroblastでの特異的CPEの出現によって判定している。アデノウイルス検出において本法による分離と簡易アデノウイルス抗原検出キット(アデノ・チェック)による検出の陽性一致率は100%であること、さらにこれまですべての分離ウイルスが中和法により型別分類されていることから、本法によるアデノウイルス分離情報は信頼性に足るものである。

まず、山形市のA小児科医院を受診した発熱患者からのウイルス分離では、10月のアデノウイルス分離は126件中6件(約5%)、11月には139件中29件(約21%)、12月にも161件中37件(約23%)と増加した。また、仙台市のB小児科医院からの検体では、アデノウイルスは同様に10月に149件中11件(約7%)、11月には212件中16件(約8%)、そして12月には277件中51件(約18%)と増加した。

なお、一般にアデノウイルス分離は春〜夏にかけて多い傾向があるとされるが、今年度の4〜9月の6カ月の平均の分離実績では、山形A小児科医院で月当たり検体数126中アデノウイルス分離数は12(10%弱)、仙台B小児科医院では月当たり検体数214中アデノウイルス分離数15(約7%)である。

アデノウイルス感染患児の症状:アデノウイルスが分離された症例の主な症状は、発熱で39℃〜40.5℃といった高熱を3〜5日と長期間示す例が多かった。咽喉は滲出性発赤が認められ、年長児では痛みを訴える者も多かった。その他、量は多くはないが鼻汁が出ている例や、眼脂が出ていた例、下痢症状を示す例もあった。また症例によってはかなり重症感が強く、点滴を余儀なくされた例や、年少児で肺炎に至った例も目立った。

分離ウイルスの型別同定:分離されたアデノウイルスは、さらに、中和法による型別分類がなされている。型別同定の結果は、山形市では11月、12月、分離66件中55件がアデノ3型と、圧倒的にアデノ3型が多く、あとは1型が5件、2型が4件であった。一方、仙台市では、分離67件中アデノ3型が30件で一番多く、2型が20件、5型が5件、6型が1件であった(2001年1月25日現在4件が未同定)。

考察:以上、少なくとも仙台市、山形市における小児科領域に関するかぎり、2000年末現在、発熱をともなう呼吸器疾患のかなりの割合がアデノウイルス感染によるものである可能性が強く示唆された。過去におけるこの時期のアデノウイルスの高率な分離に関しては、1997年10〜12月の3カ月間に、山形A小児科医院で398検体中70件(約18%)(このときはおもにアデノ3・4型が分離されていた)、12月に仙台B小児科医院で142検体中15件(約11%)という分離率を示した前例がある。このように、初冬の時期の熱性疾患のかなりの部分にアデノウイルス感染が関係していることは、インフルエンザとの鑑別診断上重要になってくると思われる。アデノウイルス感染者が39℃以上の発熱を示すことはしばしばあり、この時期、感染症サーベイランス対象のインフルエンザ様疾患の中にアデノウイルス感染症もかなりの確率で紛れ込む可能性も、今後留意すべきことと思われる。

国立仙台病院ウイルスセンター
近江 彰 岡本道子 千葉ふみ子 遠藤智恵美 伊藤洋子 西村秀一
永井小児科医院 永井幸夫
勝島小児科医院 勝島矩子

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