インターネットを利用した岐阜県下におけるサルモネラ感染症発生動向調査
−Salmonella Saintpaulの発生について−
(Vol.22 p 36-38)
岐阜県では、2000年4月からサルモネラ感染症を発生初期段階で正確に把握・解析し、その情報を的確に行政および医療機関に提供することを目指して、インターネットを利用したサルモネラ感染症発生動向調査システムを構築し、運用を開始した。
発生情報ならびに分離菌株を解析した結果、6月下旬〜10月にかけて岐阜県では今まであまり分離されることがなかったSalmonella SaintpaulがSalmonella Enteritidisに比べ非常に多く分離されていたことがわかった。今回は本システムの概略と11月末日までの結果について報告する。
システムの概略:
1)県内を6地域に分け、9病院、4民間検査センターおよび7公的機関を選定し、定点とした。
2)各定点からインターネット経由で岐阜市医師会のデータベースサーバーにサルモネラ発生情報を週報として入力していただくとともに、分離菌株を1カ月ごとに保健環境研究所に送付していただいた。
3)当研究所は分離菌株について血清学的・遺伝子学的・疫学的解析を実施し、得られた結果を随時同データベースに入力した(図1)。
以上の方法で入力された各種データはデータベースサーバー内で自動集計され、岐阜市医師会ホームページ(http://www.city.gifu.med.or.jp/)でサルモネラ情報として自動表示し掲載した。なおホームページでの公開にあたって、概略の集計結果は一般向け公開ページで閲覧可能にしたが、データ入力画面および詳細な集計結果画面については、ユーザーネーム、パスワードでセキュリティ確保した非公開ページを利用して、定点機関やその他の行政、医療機関のみが利用可能にした。
サルモネラ検出状況:2000年4月の本システム開始以降11月末日までに、213件の情報ならびに菌株が収集された。収集された菌株の主な血清型の検出状況を表1に示す。S. Saintpaulが57株(患者46名、健康保菌者11名)と、S. Enteritidisの37株に比べ非常に多く分離された。
S. Saintpaulの検出状況:S. Saintpaulの月別の検出状況を図2に示す。6月の末から分離され始め、7月には12株、8月には分離株数はピークを迎え33株分離された。9月には8株、10月には3株と少数ながら分離されたが、11月には分離されなくなった。
分離されたS. Saintpaul 57株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)によるDNA切断パターンの分析を実施したが、すべてDegradationであったため疫学調査には役に立たなかったが、生化学的性状ならびに薬剤感受性では一致しており、1999年に発生したイカ乾製品の事例のような共通原因食も疑われたが、原因食品を特定するには至らなかった。
今後は、PFGEによるDNA切断パターン以外の分子疫学的手法を用い詳細な解析を行う必要があると思われた。
しかしながら、今回のような過去に発生の少ない血清型の多発事例や、特定地域内で連続した同一血清型による事例の探知が可能な本発生動向調査は、集団発生の前触れの探知、diffuse outbreakの発見に有用であると考えられた。
謝辞:本研究にご協力いただいた岐阜市医師会、岐阜県医師会の諸先生方、定点病院、定点検査センター、岐阜市衛生試験所、岐阜県食肉検査所、岐阜県保健所の諸先生に深謝いたします。
岐阜県保健環境研究所 山岡一清 中川裕美 所 光男 飯沼宗和
岐阜県健康福祉環境部健康局生活衛生課 上田 宏 立木 伸 望月功二
岐阜市医師会 河合直樹 佐久間芳三
岐阜県医師会 岩砂和雄