ニューキノロン低感受性チフス菌・パラチフスA菌の耐性メカニズム
(Vol.22 p 57-57)

腸チフス、パラチフスには抗菌薬の投与による治療が行われる。現在ではニューキノロン剤が使用されるようになり、腸チフス・パラチフスの治療の第1選択薬となっている。しかし、ニューキノロン低感受性株による腸チフス・パラチフスでは、ニューキノロン剤を投与しても速やかに解熱しない。国立感染症研究所細菌部の調査では、ニューキノロン低感受性チフス菌・パラチフスA菌は1998年〜2000年にかけて急激に増加している(本号特集を参照)。ニューキノロン低感受性株の耐性のメカニズムは、ニューキノロン剤の標的酵素であるDNA ジャイレースまたはトポイソメラーゼIVの遺伝子の特定の場所に点変異が入ることにより起こる。点変異によるアミノ酸置換が起こることで、ニューキノロン剤のDNA ジャイレースまたはトポイソメラーゼIVへの阻害を低下させている。すべてのニューキノロン低感受性チフス菌・パラチフスA菌では、gyrA の83位または87位のいずれかにアミノ酸置換が起こっている。さらに、83位と87位の2重変異を持つものはさらに高度な耐性を獲得する。遺伝学的に、DNAジャイレースと高い相同性を持つトポイソメラーゼIVの変異が加わるとさらに高度な耐性を獲得することがわかっている。ニューキノロン低感受性チフス菌・パラチフスA菌もいずれはこのような高度耐性菌に変化していくことが予想される。

 参考文献
Hirose, K., Tamura, K., Sagara, H., Watanabe H., Antibiotic Susceptibilities of Salmonella enterica Serovar Typhi and S. enterica Serovar Paratyphi A Isolated from Patients in Japan, Antimicrob. Agents Chemother. 45: 956-958, 2001

国立感染症研究所細菌部 広瀬健二 田村和満 渡辺治雄

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