腸チフスワクチンについて
(Vol.22 p 57-57)
腸チフス・パラチフス混合ワクチンは、1970年代前半までは日本でも接種されていたが、日本国内での腸チフス患者の減少、ワクチン接種後の強い副作用のため中止された。腸チフスのワクチン接種は、現在日本では行われていないが、世界的な多発地域あるいは海外旅行者のためにワクチン開発が続けられている。現在、世界では以下に示す3種類のワクチンが使用されているが、わが国では未承認である。
1)弱毒生菌ワクチン
スイス血清ワクチン研究所で開発されたワクチンで、腸チフス弱毒生菌Ty21a株を使用したワクチンである(商品名:Vivotif Berna)。投与方法は腸用カプセル1個ずつを1日おきに4回、食事の1時間前に冷水で飲む。5年間は効果が持続するといわれている。5歳以下の小児には投与は勧められていない。副作用は少なく、抗体は2年以上持続する。アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、南アメリカなどで認可され使用されている。
Swiss Serum and Vaccine Institute Berna Products Coral Gables, FL, USA
2)Vi多糖体ワクチン
フランスPasteur-Meriux社で開発されたチフス菌のVi莢膜多糖抗原を精製したワクチンである(商品名:Typhim Vi)。1回の筋肉注射で効果が2〜3年持続する。2年ごとに追加接種をする。全菌体不活化ワクチンと同じような副作用があるが、その程度は比較的軽い。2歳以下には使用が認められていない。他のワクチンと異なり、室温(22℃)で約3年間保存可能である。ヨーロッパ、アフリカ、アジア、オーストラリア、アメリカなど63カ国以上で認可されて使用されている。
Pasteur-Meriux Connaught, USA
Discovery Drive, Swiftwater, PA 18370-0187, USA
3)全菌体不活化ワクチン(加熱フェノール不活化またはアセトン不活化)
加熱フェノール不活化ワクチンは、日本でも使用されていたものである。アメリカでは現在も経口ワクチンが使用できない人に使用されている。その他に、アセトン不活化ワクチンも使用されている。商品名は、Typhoid Vaccine, U.S.P., Typhoid Vaccine+(Acetone-killed and dried)である。初回4週間間隔で2回皮下接種し、3年ごとに追加接種を行う。効果は2〜3年持続するが、発熱、頭痛、全身倦怠感、局所の腫脹、接種部位の疼痛・硬結などの副作用が非常に強い。
Wyeth-Ayerst Laboratories, Inc.
Philadelphia, PA 19101, USA
国立感染症研究所細菌部 広瀬健二 田村和満 渡辺治雄