宴会場で発生した集団食中毒事例からのノーウォーク様ウイルスgenogroup Iの検出−岡山県
(Vol.22 p 62-63)
日本で発生する散発および集団胃腸炎から検出されるノーウォーク様ウイルス(NLV)は、その大部分がgenogroup (G)IIに属する株といわれていたが、2000年1月からの新検査情報オンラインシステム稼働によりNLVのgenogroup の内訳が入力できるようになり、GIに属する株の検出報告も見られるようになった。岡山県では、2000年10月に結婚披露宴で発生した集団食中毒でGIに属するNLVが検出された事例を経験したので、その概要を報告する。
2000年10月16日山口県下関市立下関保健所から岡山県環境衛生課に対して、倉敷市内の結婚式場で開かれた披露宴の出席者4名が下痢・発熱等の症状を訴えているとの通報があった。当該施設を所管する倉敷保健所が調査した結果、10月8日、9日に行われた3組の披露宴の出席者 113名中57名が腹痛・下痢・嘔吐等の症状を訴えていることが判明した。
そこで10月17日〜19日(第7〜11病日)に採取された有症者9名の糞便について、電子顕微鏡検索とRT-PCR(ポリメラーゼ領域)によるNLV検索(使用プライマー:35`/36-NV81/NV82, SM82、 MR3/MR4-Yuri22F/Yuri22R )を実施した。その結果、電子顕微鏡検索では検出されなかったが、RT-PCRでは2名(第7および第11病日)でNLVが陽性となった。得られたPCR産物(FP210、 FP213)についてマイクロプレートハイブリダイゼーション(1999年度公衆衛生院プローブ5種による)を実施したところ、G1P-Bとのみ強く反応し、GIに属するNLVと確認された。また、ダイレクトシークエンス法によりPCR産物の292塩基の配列を決定したところ、両者の塩基配列は完全に一致した。これらとGIに属する既知のウイルスの塩基配列を比較すると、海外で検出されたNorwalk、 Desert Shield、 Southamptonとの相同性はそれぞれ74.2%、 74.1%、 77.2%であったが、国内で検出されたChibaとは91.4%の相同性を示した(図1)。
同一施設を使用した3つのグループから有症者が発生していることから、原因は披露宴で提供された食事が疑われたため、当該施設に保存されていた食品と食材17品目について有症者便と同様のRT-PCRを実施したが、全例陰性であり、原因食品を明らかにすることはできなかった。
GIに属するNLVは、岡山県では1996/97シーズンに初めて検出されて以降、1998/99シーズンに少数検出されたのみであったが、2000/01シーズンは本事例以降12月に発生した有症苦情事例でもGIに属するNLVが検出されている。今後の流行におけるgenogroupの変化に注目したい。
おわりに、本稿をまとめるにあたりご協力いただいた倉敷保健所関係各位に深謝します。
岡山県環境保健センター
濱野雅子 藤井理津志 葛谷光隆 小倉 肇