沖縄において多発した広東住血線虫症(好酸球性脳脊髄膜炎)
(Vol.22 p 64-65)

好酸球性脳脊髄膜炎の最も重要な病因として、広東住血線虫の感染があげられる。その中間宿主であるアフリカマイマイが生息する南西諸島が主な流行地であるが、中間宿主の摂取で感染する本線虫症は本来稀な疾患である。今回、我々は沖縄県で短期間に多数発生した本線虫症を経験したので以下に簡単に紹介する。

患者は2000年1月初旬の男性1名の発生を皮切りに3月末までに8名にのぼった(表1)。患者の発生は1月上・中旬に集中し、従来患者の報告の多かった宮古島での発生は1例のみで、そのほとんどが沖縄本島在住者であった。患者はすべて成人であったが、うち6名は20歳代の若者であった。ほとんどの患者で頭痛、37℃前後の微熱が続き、髄液および末梢血中に著明な好酸球増多が認められた。ゲル内沈降反応による血清検査の結果、ほとんどの患者に広東住血線虫抗原との沈降線が認められ、本線虫症と診断された。一方、陽性反応の認められなかった患者(症例2)については、髄膜炎が著しく好酸球性であったこと、同棲中の男性(症例3)が同時に発病したことなどの状況を加味して本線虫症の疑いが強いと判断された。また、本線虫症では通常虫体が確認されることはほとんどないが、今回髄膜炎症状を呈さなかった患者(症例7)の眼底から本線虫幼若虫が摘出された。問診による調査では、症例7の患者が農作業で頻繁にアフリカマイマイと接触した以外、発病前1カ月以内に中間宿主の摂食や感染源と思われるものとの接触の経験はなかった。また、共通の飲食店等を利用した機会はなかった。患者はいずれも髄液除去およびステロイド療法などの対症療法で比較的短期間に軽快した。

過去沖縄での患者発生数は22例にのぼるが、年間の発生数はせいぜい1〜2例程度であった(表2)。1975年には年間4例の症例数を数えたことがあるが、今回のように短期間での多数発生はこれまでに例がない。また、従来は中間宿主の摂取が原因で発症した例がほとんどであったが、最近の特徴としては感染源が不明であることが多い(表2)。

今回の症例も感染源が明らかではないが、従来の中間宿主を摂取して発症した症例に比べて軽症であった例が多かったことから、これら背景として少数の本線虫に汚染された生野菜などを介して感染した可能性を考えている。近年、アフリカマイマイの生息しない本土でも、本線虫の定着が各地から報告されるようになり、それに伴い本土からの症例も増加傾向にあることは吉村(1997)が本月報Vol.18、No.5に述べているとおりである。また、沖縄旅行後に本土で発症した例もこれまでに4例確認されている。今後とも本線虫症の発生が十分予想されることから、髄膜炎症状を訴える患者の診断の際には、本線虫症も念頭におき検査をすすめることが肝要と思われる。

琉球大学医学部寄生虫学 當眞 弘 佐藤良也

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