セラチア院内感染事例発生後のフォローアップ−堺市
(Vol.22 p 87-87)

2000(平成12)年6月、大阪府堺市内のM病院内でセラチアによる感染が多数認められ、うち血流感染によって死亡した3名を院内集団感染と認定した事例を本月報Vol.22、No.2で報告した。堺市が設置した専門調査班からの助言を受け、堺市保健所では事例発生以後、同病院の感染対策委員会と、病院の院内感染対策における活動とその改善状況について毎月協議を続けている。今回事例発生から半年が経過した時点での進捗について報告する。

セラチア、 MRSA、 血液培養陽性菌の分離動向について:同病院の感染対策委員会に定期的に報告されている病原菌サーベイランスによれば、入院患者の各種培養検査におけるセラチアの分離は集団感染事例が表面化した2000年7月をピークとし、その後急速に減少している。7月の1カ月間でのセラチア分離が15件(同一患者の重複を除く)であったのに対し、半年後の2000年12月には3件にまで連続的に減じており、入院延べ数に対するセラチア陽性患者数は、それぞれ0.24%、0.02%となっている。同病院における2000年のセラチア分離動向は、1月に高く(0.13%)、4月まで低下する(0.05%)変動が見られたため、事例発生後の減少動向が2001年初冬から増加に転じないか、引き続き注視していく必要がある。接触感染対策の指標として多くの施設で用いられているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)についての同様の集計でも、2000年8月の0.35%をピークに同年12月の0.08%まで減少が認められている(図1)。

血液培養陽性例は、集団発生が起こった2000年6月(0.21%)がピークになっており、その後10月(0.09%)まで減少して、11月は0.13%にやや上昇している。

これらの結果はいずれも、事例発生を契機に同病院内での病原菌感染が減少傾向にあることを示している。細菌培養検査件数は総検体数および多くの種類の検査において事例発生前より増加していた。

院内感染防止活動について:保健所が同病院に対して行った施設内感染防止のための改善指導を受け、同病院は2001年1月末までに感染症対策委員会を計20回開催し、施設内感染防止に取り組んでいる。「セラチアによる院内感染事例報告書」が全委員に配布された他、院内感染防止マニュアルの根本的な改正と各種手順書の整備(末梢静脈へのカテーテル留置、手洗い手順、消毒用アルコール浸漬綿取り扱い、ネブライザーに対する消毒・保清、各種患者処置手順等)、前述の追跡疫学調査、感染症発生報告の励行、職員教育などに取り組んでいる。事例から得た教訓を、外部の医療施設に講演などを通じて共有する活動も行われている。

抗生剤使用量(全出庫本数)は2000年5月(3,600本)を境に減少傾向にあり、同年9月以降は月平均1,500〜2,000本程度となっている。とりわけMRSA治療に頻用されていたと考えられる塩酸バンコマイシンは、2000年5月の190本から同年11月には10本程度に激減している。このことは院内感染対策の充実とそれに関連する抗生剤の使用状況を示している。

M病院によると、院内感染対策に伴う費用増加予測では、事例発生前の年当初予算の3倍以上になると概算されている。これには追跡疫学調査のための常勤スタッフの人件費、ネブライザー器具の乾燥機、内視鏡洗浄機の設置など、次年度以降償却可能な経費が含まれているが、院内感染対策費が増加することは必須である。

同病院における院内感染対策は、事例発生後順調に改善している。改善のスピードが速いのは、セラチアの感染コントロールが比較的容易なことがあるが、何より病院スタッフの改善に向けた熱意が挙げられる。事例発生後約半年が経過し、これからはオーバープロテクション気味である同病院の院内感染対策を、いずれは経費削減の面から緩和していく必要が生じることは予測されることである。その際、アンダープロテクションレベルにまで緩和されて、事例発生前の状況に戻らないようにする注意が必要となる。そのためには病原体サーベイランスによる継続監視が必須である。

同病院への院内感染対策指導が終了する事例発生後1年の段階で、改めて総括することを試みたい。

堺市保健所
岡澤昭子 安井良則 池田和功 今井龍也
国立感染症研究所感染症情報センター
高橋 央 藤井逸人 中瀬克己 岡部信彦

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