世界におけるBCG の現状− WHO
(Vol. 22 p 91-92)
結核は、単独病原体での感染による成人死亡数としてもっとも多い数を示す疾患と考えられており、その対策は、1993年に世界保健機関(WHO)において世界的な緊急課題(global emergency)とされた。現在では年間約1億人の子供がBCGワクチン接種を受けている。結核対策には3つの柱(BCGワクチン接種、予防内服、抗結核薬による治療)が挙げられるが、BCGは重要な乳児ワクチンとされながらも、その効果や実績の点で議論がある。
世界におけるBCGの接種方針は国によって異なるが、おおよそ次の4グループに分けられる。すなわち、1)出生直後(もしくは最初の医療機関受診時)の1回接種(採用率最多、WHO推奨方式)、2)小児期の1回接種、3)複数回接種、4)接種を推奨しない、である。各国の方針は、地域における結核の流行状況と将来予想、保健システム、歴史的経緯に基づいている。予防接種拡大計画(EPI)としてのBCG接種の禁忌対象は、WHOでは「臨床症状をともなうHIV感染者」とされており、不顕性HIV感染者は含まれていないが、先進国では保健サービスの能力に応じて、さらに厳しい基準を設けているところもある。接種方法としては主に皮内接種が行われているが、日本など一部の国においては複数個所穿刺による接種が採用されている。小児の重症結核(結核性髄膜炎、播種性結核)に対してはワクチンの予防効果が示されているものの、成人の肺結核に対する効果は推定0〜80%と報告に隔たりがある。接種後の有効期間に関してはほとんど知見がない。また、ハンセン病を含む他の抗酸菌感染症に対するBCGの有効性が示されている。追加接種に関しては公式の評価報告がなく、 WHOとしては推奨しない。
近年、医療従事者に対する有効性の報告があり、ワクチン効果が13%あれば費用対効果が得られることが米国のモデルを用いた研究で示された。副反応については、接種部位に瘢痕を残すことが多いが、一般的にBCGは安全なワクチンと考えられる。現在、新しいワクチンとして多くの候補が研究されている。
(WHO、 WER、 76、 No.5、 33-39、 2001)