英国におけるMMRワクチン論争の最新状況
(Vol. 22 p 92-92)
麻疹・おたふくかぜ・風疹(MMR)ワクチンと自閉症、炎症性腸疾患との関連についての論文が1998年に発表されてから、英国における2歳児の接種率は1995年には92%であったのが、1998年末には低下して88%となった。その後の広範な疫学研究の結果、上記関連を示す証拠は得られていない。過去2週間英国のマスコミは、1998年のランセット論文の著者のうちの2名によって最近書かれた総説に動かされて、再びMMRにターゲットを絞っている。その総説に引用された論文は偏っており、重要なフィンランドの論文を取り上げていない。さらに、初期研究の再分析にも問題があり、基本的な間違いがある。MMRの英国への導入の16年前には米国が、数年前には欧州の数カ国がMMRの導入を行っており、膨大なサーベイランスデータが利用できるにもかかわらず全く取り上げていない。市民の関心を受けて英国政府は今週、 MMRの安全性を再確認するキャンペーンを展開した。時を同じくして、フィンランドからMMRの安全性に関する論文が発表された。同論文によると、MMRワクチン接種を受けた180万人の小児が14年間にわたる追跡調査を受け、接種関連の自閉症や炎症性腸疾患は一人も認められていなかった。
MMRワクチンは35カ国以上で2億5千万ドース以上が使用され、高い安全性が知られている。上記総説論文の筆頭著者は、MMRより安全な方法として単味ワクチンの接種を勧めているが、被接種者個人の利益にも公共の利益にも反する方法である。まず、単味ワクチンの複数接種法ではワクチン未接種期間が数カ月長くなり、集団免疫効果が危うくなる。近年のオランダやアイルランドにおける麻疹や、ギリシャにおける風疹の経験から、適正レベル以下の集団免疫によって、麻疹感染や死亡、先天性風疹症候群が再興することが知られるようになった。今や、単味ワクチンよりもMMRワクチンにおける安全性の証拠が蓄積されており、単味ワクチンを推奨するべきでない。フランスでは麻疹単味ワクチンが認可されているが、それはMMR接種年齢以下の小児に対するワクチン接種のためである。麻疹単味ワクチン接種児は全体の0.5%以下であり、その割合は低下しつつある。
日本は世界で唯一麻疹、風疹、おたふくかぜの単味ワクチンを使用しているが、それは1993年におたふくかぜワクチン占部株の使用を中止してから、認可を受けたMMRワクチンがないためである。日本では麻疹・風疹の流行が続いており、1992〜97年の間に79人の麻疹死亡例が報告されている。
(Eurosurveillance Weekly、 No.4、 2001)