麻疹ワクチン接種後15日目に分離された麻疹ウイルス:野生株かワクチン株かの遺伝子学的鑑別−広島県
(Vol.22 p 115-115)

症例は広島県F市に在住の1歳11カ月齢の女児で、 2000(平成12)年6月18日に市内の小児科を受診した。受診時の症状は、発熱(39℃)および麻疹様の発疹を呈し、口腔内にコプリック斑を認めたことから、臨床的に麻疹と診断された。なお患児は2000年6月7日に麻疹生ワクチン(ビケン CAM Lot:ME11)の接種を受けていた。この患者から6月22日に採取された咽頭ぬぐい液について、広島県保健環境センターにおいてウイルス検査を実施したところ、 B95a細胞で細胞融合を示すCPEが認められ、ウイルス分離が確認された。分離ウイルスは中和試験および蛍光抗体法にて麻疹ウイルスと同定された。これまでの報告で、麻疹ワクチン接種後2週間以内に発熱や発疹を認めた症例においては、その原因が接種ワクチンの副反応に原因する場合と、流行している野生株の感染によるものの両方があることが示されている(1-3)。今回の症例も、発症11日前に麻疹生ワクチンの接種を受けていたことから、分離ウイルス株について遺伝子学的鑑別を実施した。

方法は、今回の症例から分離されたウイルス株(F00-37041株)からウイルスRNAを抽出し、山口ら(3)の報告したプライマー・ペア(MH3およびMH4)を用いたRT-PCR法により麻疹ウイルスのH遺伝子の836〜1,212番目までの塩基、 377bpを増幅した。この増幅遺伝子断片について、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、GenBankに登録されている接種ワクチン株(CAM株)のそれと比較した(accession No.U03649)。その結果、両ウイルス株間の遺伝子には13カ所の塩基の相違が認められ、また塩基配列をアミノ酸に翻訳したもので比較すると、4カ所の相違が認められた()。

以上の結果から、F00-37041株は接種ワクチンに由来するものではなく、野外流行ウイルス株であると推定された。

 文 献
1.Kobune, F. et al.: Characterization of measles viruses isolated after measles vaccination. Vaccine, 13, 370-372, 1995
2.庵原俊昭ら:麻疹ワクチン接種後2週間以内に発熱を認めた症例の検討, 臨床とウイルス 22, 276-280, 1994
3.山口真也ら:施設内流行における麻疹ウイルス野生株とワクチン株との遺伝子学的鑑別,臨床とウイルス 22, 271-275, 1994

広島県保健環境センター
高尾信一 福田伸治 島津幸枝 野田雅博 徳本靜代
国立福山病院 石田喬士

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る