HIV/AIDSサーベイランス−欧州
(Vol. 22 p 118-119)

AIDS疫学的モニタリングヨーロッパセンター(EuroHIV programme)は、 WHOヨーロッパ地域51カ国から報告されたAIDSおよびHIV感染新規診断数についての2000年6月末までの結果、 および1993〜99年の献血者のHIV陽性率を発表した(Eurosurveillance Weekly 、 No.10 、 2001)。

 1.AIDS症例数およびHIV感染新規診断数

効果の高い抗ウイルス薬療法(HAART)の普及している国もあり、 HIV感染新規診断数はAIDS報告数よりHIV感染拡大の現状をより反映している。しかし、 HIV感染新規診断数は、 HIV検査や報告のやり方に依存しており、 特に、 HIV感染が大きな問題となっている西ヨーロッパ諸国でのやり方が不完全である点に注意して解釈する必要がある。

西ヨーロッパ諸国(EU15カ国およびアイスランド、 スイスなど計23カ国):1999年における西ヨーロッパのAIDS報告数は、 人口 100万人当たり25で、 中央および東ヨーロッパより約8倍多い。AIDS報告数は1996年より減少し始め、 減少幅は小さくなっているものの2000年も減少が継続している(前年比:1997年32%減、 1998年23%減、 1999年12%減)。AIDSによる死亡数も同様に減少し(前年比:1997年35%減、 1998年35%減、 1999年17%減)、 1996年に導入されたHAART療法の効果と考えられる。AIDS報告数は、 ポルトガル以外の西ヨーロッパ諸国で減少している。1996〜99年の減少率を感染経路別に見ると、 同性/両性間性的接触の男性の28%、 静注麻薬使用(IDU)の26%に対し、 異性間性的接触では13%と減少幅が小さい。

HIV感染新規診断数は、 1993年(人口 100万人当たり52)から1996年(人口 100万人当たり44)の間に減少したものの、 その後停滞している(1999年は人口 100万人当たり42)。しかし、 HIV感染新規診断数については、 イタリア、 スペインでは一部地域からの報告に限られており、 フランスからの報告はない。また、 スペイン、 ポルトガルでは報告年が限られているなど、 制約が大きいことを考慮する必要がある。ヨーロッパ全体の同性/両性間性的接触の男性でのHIV感染新規診断数の94%は、 西ヨーロッパ諸国から報告されたものである。IDUでの報告数は1996〜99年の間に減少しているが、 データが少なく解釈は困難である。データの整っている8カ国では、 異性間性的接触による感染者の58%(英国では71%)は高蔓延国からの人々である。予防策により西ヨーロッパ諸国での母子感染は減少している。

中央ヨーロッパ諸国(ハンガリー、 ポーランド、 トルコなど13カ国):1999年におけるAIDS報告数は人口 100万人当たり3.5、 HIV感染新規診断数は人口 100万人当たり7.3にとどまっている。小児HIV感染例(13歳以下)は1997〜2000年のHIV感染新規診断数の29%であり、 ほとんどはルーマニアからの報告である。IDUでの報告数は増加が見られず、 多くはポーランドからの報告である。

東ヨーロッパ諸国(ロシアなど15カ国):1999年におけるHIV感染新規診断数は人口 100万人当たり104と、 西ヨーロッパ諸国での2倍以上、 中央ヨーロッパ諸国での14倍であった。HIV感染新規診断数は、 1995年以降ヨーロッパの他地域で安定しているにもかかわらず、 東ヨーロッパ諸国では増加している。1998〜99年の間にHIV感染新規診断数は倍増し、 ロシアで著しい(410%増)。これは、 モスクワを含む新地域への感染拡大によるところが大きい。これに対してAIDS報告数は少ない(人口 100万人当たり2.4)。IDUはHIV感染新規診断数の62%を占めており、 報告数は1998〜99年の間に60%増加し、 2000年前半で既に1999年の報告数を上回った。異性間性的接触による報告数もIDUに比べて少ないものの、 1996〜99年に145%増加している。

 2.献血者におけるHIV陽性率

ヨーロッパでの献血でのHIV抗体スクリーニングは、 検査が可能になってから早期に実施されている。献血者における陽性率は繰り返し献血者では低く、 定期的に献血する人達のプールを確保するのが重要である。

西ヨーロッパ:1999年における20カ国1,800万人の献血者での陽性率は、 人口10万人当たり1.6であり、 6カ国での0からイタリア4.8、 スペイン4.9、 ギリシャ6.4までばらつきがある。EU8カ国を含む10カ国では、 新規献血者を区分して集計しており、 新規献血者の陽性率(人口10万人当たり4.8)は、 繰り返し献血者(人口10万人当たり0.8)の6倍である。

中央ヨーロッパ:1999年の11カ国での陽性率は人口10万当たり2.5で、 3カ国での0からアルバニア5.5(ただし1例のみ)、 ルーマニア5.8、 ユーゴスラビア7.2までばらつきがある。6カ国で集計されている新規献血者での陽性率(人口10万当たり14.3)は、 繰り返し献血者(人口10万当たり0.8)より高い。

東ヨーロッパ:1999年における10カ国での陽性率は、 人口10万当たり15.5であり、 アルメニアでの0からグルジア20、 ウクライナ64までばらつきがある。検査試薬の不足などで、 1999年にアゼルバイジャンで19%、 グルジアで38%がHIV検査を行われておらず、 アルメニアでは新規献血者に限って検査が実施されていた。全数検査が必要であり、 ウクライナなど陽性率の高い国では献血者の選別が急がれる。

 3.まとめ

西ヨーロッパ諸国では、 HIV感染が1980年代に同性/両性間性的接触の男性およびIDUに急速に広がり、 すでに蔓延状況にある。HAART療法によると思われるAIDS報告数の減少は、 その速度をゆるめている。また、 フランス、 イギリスでの淋病の増加を踏まえると、 感染リスクの高い性行為の増加が懸念される。このような増加の一部はHAART療法の影響によると思われる。母子感染は予防策により激減し、 感染例の多くはHIV高蔓延地域出身の母親からの出生である。西ヨーロッパでのHIV感染新規診断数の大部分は異性間性的接触によるものであり、 ことに高蔓延国からの移民において割合が高い。これら移民における効果的なHIV予防策のため、 特徴的な疫学情報があればそれを得る必要がある。

中央ヨーロッパ諸国の多くでは、 HIV感染の拡大化は防がれているが、 今後ともどの分野での予防が必要か観察を継続していく必要がある。

東ヨーロッパ諸国は広域で地域差が大きい。ラトビア、 ロシア、 ウクライナはHIV感染の急増に直面しており、 キルギスタン、 ウズベキスタンからの報告は少ない。ウクライナにおける献血者HIV陽性率の急増は、 この国での流行状況を反映している。東ヨーロッパ諸国におけるHIV感染の増加は、 この地域での若年者・青年における静注麻薬使用の増加と相関している。梅毒の集団発生からすると、 静注麻薬によるHIV感染拡大は、 性行為による拡大に繋がると予想される。東ヨーロッパ諸国におけるHIV感染予防対策が急務である。

(HIV/AIDS Surveillance in Europe Mid-year report 2000,No.63:http://www.ceses.org/AidsSurv/rapport_n63_2000/rapport63eng.htm)

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