ファミリーレストランチェーン店で発生した腸管出血性大腸菌O157:H7による感染症−富山県
(Vol.22 p 138-139)

2001(平成13)年2月下旬〜3月中旬にかけて富山県・滋賀県・奈良県で腸管出血性大腸菌O157:H7(以下O157)に感染した患者の届け出があった。それぞれの管轄保健所の調査により、 これらの患者は同じ系列のファミリーレストランで「ビーフ角切りステーキ」を食べていたことが判明した。このO157によるdiffuse outbreakにおける富山県での発生の概要は以下のよであった。

県内の医療機関で3月14日、 下痢、 腹痛症状の9歳女児から、 また、 3月18日、 血便等の症状の15歳男児からO157が検出された。保健所で喫食調査等を行ったところ、 両者とも同じ系列のファミリーレストランにて「ビーフ角切りステーキ」を食べていたことが判明した。他に共通食がなかったことから、 この食品が原因である可能性が高いとして、 詳細な調査が実施された。

 1)患者分離株の性状:患者2人から分離された菌株はともにVT1およびVT2遺伝子を保有し、 白糖利用による酸産生が陰性であった。また、 Xba I処理による染色体DNA切断パターンの比較を行ったところ、 そのパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)像は一致した。

 2)原因食品からのO157の検出:この結果を受けて、 県内外のレストランの系列11店舗より共通食である「ビーフ角切りステーキ」の半製品(以下ステーキ肉)等を収去し、 O157を検索した。はじめにトリプチケースソイブロス(TSB)で検体を10倍乳剤とし、 37℃6時間培養後、 免疫磁気ビーズ(IMS法)を用いてO157の分離(方法1)を試みた。一方、 その6時間培養液1mlをノボビオシン加mECに接種、 42℃20時間培養し、 この培養液について直接塗抹(方法2)およびIMS法(方法3)にてO157の分離を試みた。その結果、 検査したステーキ肉46検体のうち14検体からO157が分離された。方法1、 2、 3での分離数はそれぞれ6、 4および14検体であった。当研究所の他に県内4カ所の保健所でも同様に食品検査が行われ、 富山県全体ではステーキ肉183検体のうち78検体からO157が分離された。ステーキ肉以外の肉5検体からはO157は分離されなかった。富山県の患者と食品から分離された菌株に滋賀県より分与を受けた関連の菌株を加え、 Xba I処理による染色体DNA切断パターンの比較を行ったところ、 すべてでPFGE像が一致した(図1)。

 3)食品(ステーキ肉)の汚染状況:ステーキ肉は、 埼玉県の食肉加工施設でテンダライズ(筋切り、 細切等)処理、 タンブリング(味付け等)処理および結着処理により加工されたもので、 1袋約180g(角切り8個)単位で包装、 凍結されていた。この原因食品の汚染状況を把握するため、 一般生菌数、 大腸菌数およびO157菌数を調べた。検査に供したのはO157が分離された4検体とO157が検出されなかった1検体、 計5検体である。検査は検体10gからの5本3段階のMPN法を採用した。はじめにTSB培地にて6時間培養し、 その後mEC培地で42℃、 20時間培養後、 その培養液をそれぞれビーズ処理し、 O157が分離された試験管数からO157菌数を求めた。結果はO157の分離に関係なく一般生菌数が1.8×104 〜1.6×105/g、 大腸菌数が5〜27/100gであった。O157菌数はそれが検出された検体で<2〜11/100gであった。ステーキ肉は先の加工工程において内部までO157に汚染されたと考えられる。客には加熱後に出されることになっていたが、 患者には加熱不充分で提供されたと考えられる。多数の患者発生につながらなかったのは汚染菌量が少なく、 かつ汚染されたサンプルに偏りがあったことによると推測される。

今回は、 患者2人の届け出を確認した早い時点で詳細な疫学調査と分離菌の分子疫学的解析を実施し、 営業停止等の対策を立てたこともまた、 患者発生を最小限に止めた理由であると思われる。問題解決にはPFGE像等のメールによる他県との情報交換が非常に有効であった。

富山県衛生研究所
磯部順子 田中大祐 細呂木志保
高岡保健所薬務食品課
古城典子 飯田恭子 堂高一彦

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