「牛の丸焼き」を原因食品とする腸管出血性大腸菌O157による集団発生−千葉県
(Vol.22 p 139-140)

2000(平成12)年10月28日に船橋市内で開催された船橋市農水産祭・畜産フェスティバルで提供された「牛の丸焼き」を原因食品とする腸管出血性大腸菌(EHEC)O157による集団発生は、 二次感染事例を含めて有症状者30名、 無症状病原体保有者28名、 総計58名の患者・感染者を出し、 同年12月22日に終息宣言を迎えた。本事例は、 1)感染症と食中毒の両者にまたがるものであり、 感染症対策部門と食品保健部門の一体的対応が問われたこと、 2)喫食者が数百人以上に及ぶとともに、 正確な喫食者の同定が行政サイドからは困難であったこと、 3)患者・感染者が水面下に存在する可能性があり、 これらの患者等からの二次感染が危惧されたこと等の特徴を有し、 地域全体の健康危機管理のあり方が問われた事例であったと言える。

事件の探知は、 11月8日に船橋市内の3つの医療機関からEHEC O157感染症の届け出が千葉県船橋保健所に寄せられたことによる。これら3名の患者について、 同日中に発症状況と喫食状況の調査を行ったところ、 共通喫食場所が船橋市農水産祭・畜産フェスティバル、 共通喫食品が同フェスティバルで提供された「牛の丸焼き」であることが強く疑われた。しかし、 この段階では感染原因・経路として、 1)同フェスティバル、 2)広域流通食品、 3)3名(3家族)の独立感染のすべての可能性が残されていたため、 これらの患者由来菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を行うとともに、 医師会・学校等の関係機関へ情報提供の協力を依頼、 船橋市と協議し市民からの相談窓口を設け、 希望者の検便を実施することとした。遺伝子解析の結果、 5名の患者由来株のPFGEパターンが一致し、 11月13日までの間に届け出られた計10名(先の3名を含む)の共通喫食品が同フェスティバルで提供された「牛の丸焼き」であったことから、 同日、 原因食品を同フェスティバルの「牛の丸焼き」と決定した。なお、 「牛の丸焼き」の汚染原因・経路については、 牛肉の流通経路およびフェスティバル会場等での収去・ふきとり検査等のすべての検体でEHEC O157は分離されず、 確定できなかった。本事例では、 船橋市内のA保育園において二次感染が発生し、 最終的には患者・感染者は58名となったが、 その内訳は感染区分別で一次感染41名、 二次感染11名および不明6名であった。発見契機別では、 医療機関20名、 患者家族検便8名、 市民一般検便24名およびA保育園検便6名であった。表1に事件の概要のまとめ、 図1に患者発生状況および図2にPFGEパターンを示す。本事例のPFGEパターンは、 これまでのO157のパターンと異なり、 新しいパターンであった(国立感染症研究所)。

本事例の原因施設である同フェスティバルは、 食品衛生法に基づく営業許可対象ではなかったが、 同様のバザー、 文化祭、 催事場等のイベントでの短時間の食品提供における安全確保と食中毒事例が発生した場合の対応が重要な課題であると考えられる。

最後に、 今回の事案への対応について御尽力・御協力いただいた医師会等の医療機関、 学校関係者その他の関係者の方々に御礼申し上げます。

千葉県船橋保健所
山本準子 石川 淳 宮本美紀子 野村隆司
千葉県衛生研究所 内村眞佐子 小岩井健司

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る