レストランチェーン店における腸管出血性大腸菌O157感染事例−神奈川県
(Vol.22 p 140-141)

2000年9月、 神奈川県内の3保健所(T保健所管内1名、 O保健所管内2名および保健所管内1名)において腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7 Stx1,2による患者発生があった。これら3事例の患者は各々の保健所管内にあるレストランチェーン店で「ひとくちステーキ」を喫食しており、 T保健所およびO保健所管内2店舗の食材調査を行ったが、 いずれからも当該菌は検出されなかった。しかし同時期に、 埼玉県、 静岡県および山梨県においても同じレストランチェーン店の「ひとくちステーキ」を喫食したO157患者発生がみられた。

神奈川県における事例発生の探知では、 T保健所およびO保健所管内で発生した2事例(患者各々1名および2名、 計3名)の発生届け出日および年齢がほぼ同一で、 また、 発生地域も隣接していたことから、 両事例間の喫食調査の照合を行ったところ、 両事例の患者は、 8月27日または28日に各々の保健所管内のレストランチェーン店で「ひとくちステーキ」を喫食していることが判明した。患者3名は6〜11歳の女児で、 発症日は8月29日〜31日、 発症までの潜伏期間は2〜3日であった。患者の症状は、 下痢(血便)、 腹痛が主症状であったが、 うちT保健所管内の1名は発熱および嘔吐の症状も呈し9月2日〜6日まで入院した。

両保健所において患者家族および各店舗従業員の検便、 「ひとくちステーキ」を含めた食材および店舗内の環境調査を行ったが、 いずれからも当該菌は検出されなかった。

一方、 H保健所管内で、 新たに7歳の男児1名の患者発生(発症日は9月4日)があったが、 その時点での喫食調査では同レストランチェーン店における喫食歴は確認されていなかった。しかしながら、 T保健所管内の患者1名、 O保健所管内の患者2名およびH保健所管内の患者1名からの分離株計4株について制限酵素Xba Iを用いて、 パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)によるDNAパターンの解析を行ったところ、 いずれもPFGEパターンは同一であった()。これら4株のPFGEパターンが一致したことから、 H保健所管内患者について再度喫食調査を実施したところ、 H保健所管内の同レストランチェーン店において8月30日に「ひとくちステーキ」を喫食していることが確認された。

近年、 PFGEを用いた疫学解析が感染経路の追及等に利用され、 PFGEパターンが多型化する菌種においては疫学解析手法として有用性が認められている。特にEHEC O157のPFGEパターンは多型化を示すことから、 感染源、 感染経路の推定および疫学解析の一手法として重要視されている。今回、 神奈川県内で同時期に発生したEHEC O157感染例3事例は患者間の接点はなかったものの、 レストランチェーン店にて同一メニュー「ひとくちステーキ」を喫食していることが明らかとなったため、 事例間相互の関連性について調査を行った。原因食品として疑われた「ひとくちステーキ」から当該菌は検出されなかったが、 各事例の患者由来株のPFGEパターンは同一であったことから共通の感染源による事例と推察した。さらに本PFGE画像ファイルを電子メールで国立感染症研究所(感染研)に送付し、 EHEC O157のPFGEパターンの解析データとの照合を依頼した。その結果、 最近のデータ中には送付したパターンと同一パターンを示すO157菌株の分離事例がないことを確認し、 神奈川県内の3事例はレストランチェーン店の共通の食材を介したEHEC O157感染事例であると特定した。

その後、 神奈川県内では本事例に関連する患者発生はなかったが、 埼玉県、 静岡県および山梨県で患者発生がみられ、 4県の患者由来株は感染研で同一のPFGEパターンを示すことが確認され、 これら事例はレストランチェーン店の共通食材を原因としたdiffuse outbreakであることが判明した。

神奈川県衛生研究所細菌病理部

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