エンテロウイルス71型による脳炎死亡例を含む手足口病の流行−兵庫県
(Vol.22 p 144-144)

手足口病と中枢神経系疾患を併発した流行が2000年6〜8月に兵庫県南西部の一地域で発生した。中枢神経系疾患を併発した手足口病患者は29名で、 そのうちの25名は無菌性髄膜炎、 7名は小脳失調症、 5名は脳炎、 1名は急性弛緩性麻痺を併発していた(9名は複数の中枢神経系疾患を併発していた)。また、 脳幹脳炎を併発した2歳女児が死亡した。患者の平均年齢は約3歳、 重症者は2歳以下で多く、 4歳以上では無菌性髄膜炎患者が多い傾向が見られた。

手足口病と中枢神経系疾患を併発した患者29名のうち12名についてのウイルス分離および臨床検体のRT-PCRでは、 エンテロウイルス71型(EV71)の分離陽性は7名、 EV71遺伝子は8名(死亡例1名を含む)から検出され、 計10名(83%)がEV71陽性となった。ウイルス分離が陽性であるにもかかわらずRT-PCRが陰性となったケースが2例あったが、 この検体に関しては現在さらに検討中である。RT-PCRの増幅DNA(VP4領域)のシークエンスは、 EV71(GenBank AB051323)と201/207base(97%)、 アミノ酸に翻訳すると69/69(100%)一致したためEV71と同定した。なお、 この塩基配列は、 清水ら(Jpn. J. Infec. Dis., 52, 12-15, 1999)のEV71の分類によると、 タイプA(A-2)に属していた。

この流行におけるEV71は分離および中和(国立感染症研究所から分与された抗EV71血清を使用)による同定が困難なため、 分離株からRNAを抽出し、 これをBrownら(J. Clin. Virol., 16, 107-112, 2000)の設計したEV71のVP1領域を特異的に増幅するプライマーを用いたRT-PCR反応により検討した。その結果、 分離株すべてで484bpの明瞭なEV71特異的バンドを確認した。

検査した患者の83%からEV71が検出されたことから、 このウイルスが脳炎死亡例を含む手足口病の流行の病原と考えられた。しかし、 県内全域で手足口病の流行が見られたが、 中枢神経系疾患を併発した患者が局所的に多発した原因は不明で、 現在その分離株等についてさらに検討中である。

兵庫県立衛生研究所 藤本嗣人 近平雅嗣 増田邦義
神鋼加古川病院   吉田 茂 箙 ひとみ 今井恵介 三舛信一郎
国立感染症研究所  長谷川斐子
国立公衆衛生院   西尾 治

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