北マリアナ諸島旅行後に発症した腸管出血性大腸菌O157集団感染事例−山梨県
(Vol.22 p 165-166)

2001(平成13)年3月14日、 F病院から親類関係にある子供2名(10歳未満、 A、 B)から腸管出血性大腸菌O157を分離したとの連絡がY保健所にあり、 当所で分離株のVero毒素を検査したところ、 2株ともO157:HNM(VT1、 VT2産生)であった。

患者2名は3月4〜7日に家族ら(4家族11名)と北マリアナ諸島にツアーで旅行し、 帰国後8日と10日に相次いで下痢、 腹痛の症状を呈し、 血便により12日、 13日と入院していた。保健所の疫学調査により、 旅行中以外に患者2名の共通食はなく、 また、 接触も少ないことから旅行中の感染が疑われた。旅行同行者11名とその家族6名の検便を実施し、 旅行同行者のうちAの母親(C)、 Bの父親(D)および別家族の50代の女性(E)計3名からO157:HNM(VT1、 VT2産生)が分離された。さらに、 県内の別グループで同一ツアーに参加した家族5名の検便も実施したがO157は分離されなかった。旅行中の喫食調査が行われたが、 バイキング形式の食事等不明の点が多く、 原因の特定には至らなかった。ツアーは成田集合、 往復指定のフリープランで、 他のツアー参加者で体調の異常を訴える者はみられなかった。

本事例の分離株5株は1濃度ディスク法(BBL)による薬剤感受性試験で、 SA、 SM、 TC、 CP、 KM、 ABPC、 CET、 CFX、 LMOX、 ST、 NFLX、 FOM、 GM、 TMP、 DOXY、 CTX、 CPFX、 NAの18薬剤のすべてに感受性を示した。プラスミドプロファイルは、 5株とも共通に92.4kbを保有し、 患者Bから分離された株のみ、 ほかに60kbのプラスミドを保有していた。制限酵素Xba Iを用いてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ()、 1〜2本のバンドの違い(特に患者Bで97kb付近に明るいバンド)はあるものの、 2000年分離のO157:HNM(VT2産生)と比較すると、 A〜Eの5株は同じパターンを示しており、 同一由来の菌であることが示唆された。さらに、 5株を国立感染症研究所に送付し、 他の地域との比較を依頼したところ、 同時期に流行していた近畿地方のビーフ角切りステーキ由来株、 関東での牛タタキ由来株とも異なるパターンとのことであった。

本事例は、 旅行以外に患者、 保菌者に共通食や接触がなく、 分離菌5株が同一由来の菌であることが示唆されたことから、 旅行中の感染と推定された。

海外旅行では、 環境の急変やストレスなどで体調を崩しやすく、 消化機能も低下して腸管感染症に感染しやすいとされている。旅行中は過労や暴飲暴食を避け体調維持に努める、 生水・生ものは摂取しないようにする、 加熱調理されたものを温かいうちに食べるなどの指導、 啓発が必要である。

山梨県衛生公害研究所 野田裕之 大沼正之 金子通治

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