ビーフ角切りステーキを原因とした散在的集団食中毒事例−滋賀県
(Vol.22 p 166-167)

2001年3月4日に滋賀県近江八幡市内の6歳・A女児から腸管出血性大腸菌(O157:H7、 VT1&2産生、 以下O157)が検出されたため、 医療機関から所管の保健所に腸管出血性大腸菌感染者の発生届けがあった。患者の症状は2月28日から微熱が見られ、 3月1日には下痢、 腹痛、 さらに3月2日には血便も認められた。

A女児の家族3名の健康調査と検便を行った結果、 3名全員からO157が検出された。そのうち1名は3月4日から下痢、 腹痛が見られた有症者のB女児であり、 他の2名はいずれも無症状病原体保有者の成人であった。新たに家族3名からO157が検出されたため、 再度喫食調査を行ったところ、 2月25日に家族4名で県内のAファミリーレストラン(以下Aレストラン)を利用し、 ビーフ角切りステーキをA女児が4切れ、 B女児が2切れおよび成人2名が各1切れずつ喫食していたことが判明した。これを受けて、 喫食したビーフ角切りステーキと同一規格原料肉(以下ステーキ半製品)の2検体を検査したところ、 1検体からO157が検出された。

感染者4名由来のO157株とステーキ半製品由来のO157株について、 制限酵素Xba Iで消化したパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った結果、 すべて同一パターン()を示したため、 食中毒事件として取り扱い、 調査を継続した。分離されたO157はすべて白糖非分解であり、 O157としては特異的な性状を示した。この白糖非分解の性状は、 今回のO157の検出ならびに同一性の推定をする場合、 一つの指標として有用と考えられたので、 検査を担当する関係機関に連絡した。新たにステーキ半製品の検査を行ったところ、 13検体中5検体からO157が検出された。

一方、 同時期に発生した滋賀県大津市1名、 富山県2名(本月報Vol.22、 No.6参照)および奈良県1名のO157感染者もAレストランのチェーン店を利用していたことが判明した。これらの感染者4名から分離されたO157とステーキ半製品由来のO157は同じPFGEパターンであることが国立感染症研究所で確認された。

感染源となったステーキ半製品は輸入牛肉で、 埼玉県の食肉処理工場において、 針状の刃を刺し通し原形を保ったまま硬い筋や繊維を短く切断するテンダライズ処理、 および調味料を機械的に浸透するタンブリング処理が行われていた。関西・北陸方面のAレストランチェーン店の他に四国方面にも出荷されていたため、 ビーフ角切りステーキを喫食したと疑われるO157感染者の調査が関係府県により行われたが、 今回発見された6名のO157感染者の他に該当する事例は発見されなかった。

今回の事例は、 疫学調査によりO157の感染源を究明することができた事例で、 感染源となったステーキ半製品は、 テンダライズ処理およびタンブリング処理が行われていたため、 食肉の内部までO157が汚染していた可能性があり、 調理において食肉の中心部まで十分な加熱ができず、 O157が死滅しなかったと考えられた。また、 食肉の流通が広範囲であったため、 滋賀県、 富山県および奈良県の3県にまたがりO157感染者6名が発生した広域的な散在的集団食中毒事例となった。しかし、 関係機関が緊密に連携し、 対応を行ったことが、 感染者の拡大の防止に役立ったと思われる。

滋賀県立衛生環境センター 石川和彦 林賢一
滋賀県草津保健所 梅原成子 山田和枝 杉山信子
滋賀県長浜保健所 児玉弘美 橋本信代 安田和彦

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