ケアハウスで発生したインフルエンザの集団発生−福井県
(Vol.22 p 169-169)

福井県における今冬季のインフルエンザは例年に比べ流行時期が遅く、 2001年1月下旬に始まり4月末まで続いた(患者発生動向調査による)。ウイルス学的調査から、 A(H1)、 A(H3)およびB型の3種類が混在した流行であった。

このような状況下の4月上旬に福井市内の軽費老人ホーム(ケアハウス)で発生したインフルエンザ様疾患の集団感染について、 患者発生状況およびウイルス分離状況を報告する。

当該施設には現在51名(利用者の平均年齢は80.8歳)が入居しており、 約半数が気管支喘息、 糖尿病など基礎疾患を持っている。家族面会や外出などに特別な制限はなく、 健康管理は専任の医師が行っている。インフルエンザの予防接種も積極的に実施しており、 毎年職員をはじめほぼ全員が予防接種を受けている(今季は1回;職員100%、 入居者89%)。

患者発生は4月2日〜6日にかけて16名が発症、 その後終息に向かった。臨床症状は発熱(37.0〜39.6℃)、 せき、 咽頭痛、 気管支炎、 食欲不振などに加え、 一部の患者では目やにが見られた。また、 患者(83歳)1名が肺炎症状を呈し重篤化したが、 幸い回復している。

原因ウイルスの検索と施設内での侵淫状況を調査するため、 4月6日に発病者18名(入居者16名、 職員2名)を含む60名全員(健康者35名および職員7名)から咽頭うがい液を採取し、 MDCK、 CaCo-2およびRD-18S細胞によりウイルス分離を行った。その結果、 職員2名と患者13名の計15名(分離率84%)からMDCK細胞でのみウイルスが分離され、 感染研分与の型同定用キットによりすべて今季のワクチン株[A/Panama/2007/99(H3N2)]類似のA/香港型(AH3)と同定した。また、 健康者1名からも同様なA/香港型ウイルスが分離され、 不顕性感染者が存在した。この施設は5階建てで、 1階を除く各階に11〜14名入居しているが、 発症率に大差なかった。

この時期、 同地域ではインフルエンザが流行しており、 職員や面会者あるいは外出可能入居者などを介して施設内にウイルスが持ち込まれた可能性が高い。したがって、 施設内の感染予防が今後ますます重要になり、 感染源・感染経路を遮断するための各施設ごとの予防対策が必要と思われる。現在、 個々の患者に対するワクチン効果、 臨床経過などの詳細を調査中である。

なお、 本事例は施設の医師より当所に連絡があり、 初めて確認された事例である。発症者の大半(17/18名)がワクチン接種を受けていたため、 他の呼吸器系ウイルスによる感染も疑い検体採取が行われたことで、 その詳細が判明した。

福井県衛生研究所・ウイルス研究グループ 有定幸法 東方美保 松本和男
笠原医院  笠原智寿子

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