「みつだんご」、 「あんだんご」、 「大福」による黄色ブドウ球菌食中毒事件−静岡市
(Vol.22 p 192-193)

2000(平成12)年11月4日(土)午前0時頃、 市内中心部にある病院から、 嘔吐、 腹痛、 下痢等の症状を示す食中毒患者が複数入院しているとの届け出があり、 翌日からの調査の結果、 入院患者以外にも、 有症苦情として訴える患者らも確認され、 この時点で市内の和菓子製造販売店が原因施設であり、 同店の製造した「みつだんご」などが原因食品であることが強く疑われた。

患者のなかには静岡市内で催された全国規模の催事の見物に訪れた人たちもおり、 市内外からの客でにぎわう通り沿いに出された店および店舗内で売られただんご類を購入し摂食していた。把握できた患者は3歳〜70歳まで46名にのぼり、 9歳以下の児童と20代〜40代の女性に患者が目立った。また、 土産として購入し、 持ち帰ってから摂食したことにより市外住民からの患者発生も報告され、 販売数量がつかめなかったことや、 自宅に持ち帰って摂食するなどのことから、 摂食者数の実数の把握はできなかった。

初発患者発生時期の特定については次のとおりである。発生後の調査で判明したことであったが、 この集団発生の起こる前の10月31日(火)に、 市外A市に居住するある夫婦がこの事故を起こした店で「みつだんご」を購入し、 自宅に持ち帰り、 妻は20時30分に摂食し24時に発症したため入院した。一方、 夫は19時30分に摂食し、 翌日7時ころ発症した例があった。臨床症状は黄色ブドウ球菌によるそれに一致するが、 検査では同菌は検出されなかった。翌11月1日は水曜日で、 店は休みとなり、 2日(木)には「みつだんご」などが販売されていたが患者発生の疑われる事例もなく過ぎた。把握できた患者群の調査では、 3日(金)の午前中(店舗の開店は10時)に購入し13時頃に摂食した8歳の女児が16時に発症している例があり、 黄色ブドウ球菌を病院において検出しているが隣市であったためと、 事故通知を受けてから後、 8日(水)になってから受診し12日(日)に結果が判明したが、 エンテロトキシン(SE)、 コアグラーゼ型については確認されなかった。この点については菌株の収集に関する連絡調整が十分でなかった点は否めない。以上から、 特異例はあったもののこの8歳女児の例が臨床症状からもこの集団発生における初発事例と推定できた。

患者は11月3日〜6日にかけて発生し、 潜伏時間は最短30分〜最長18時間(平均3.9時間)で、 主な症状は吐気(84%)、 腹痛(80%)、 下痢(80%)、 嘔吐(78%)、 倦怠感(52%)、 脱力感(44%)、 発熱(30%)などであった。

患者らは聞き取り調査から共通して「みつだんご」、 「あんだんご」を摂食していることが判明したが、 原因食品、 原因物質特定のため、 患者の摂食した残品や便、 菓子製造施設店舗に残っていた製品と中間材料、 原材料等について検査した。また、 施設内の汚染状況と従業員の手指についても検査を行った。

検査は患者便18件、 従業員の便9件、 患者の食べ残し残品4件、 原材料7件、 製品残品9件、 施設内および器具類の洗い出し15件と従業員手指5件を対象に黄色ブドウ球菌を中心に、 他の原因菌を視野にいれながら全般にわたり細菌検査を実施した。黄色ブドウ球菌の検査は、 食塩卵寒天培地(日水製薬)で直接分離培養すると同時に、 7.5%食塩加1%マンニット加BHIブイヨン(自家調製)で増菌培養してから、 分離培養を行う方法を併用した。その結果、 患者の食べ残した残品および店舗に売れ残った「みつだんご」6件と「あんだんご」2件、 患者便8件、 従業員の手指1件および便1件、 施設の洗い出し5件から検出した菌を、 黄色ブドウ球菌と同定した。すべてコアグラーゼVII型・SEA産生株であった。また、 11月5日製造の「大福」を摂食し発症した患者があることがわかったため、 店舗に残っていた「あん大福」と「クリーム大福」を検査したところ同じコアグラーゼVII型・SEA産生性の黄色ブドウ球菌を検出した。

残品中の菌量について定量培養測定した。その結果、 製品で7.0×105〜5.4×107cfu/g(平均1.3×107cfu/g)、 食べ残し残品では1.1×107〜6.6×107cfu/g(平均3.3×107cfu/g)であった。一方、 製造工程上、 「みつ」や「あん」に原因があるか餅の部分に原因があるかを調べるため、 「あんだんご」の「あん」を滅菌水で洗い落とした餅の部分および施設に残っていた冷凍保存してあった餅について菌数定量を試みたところ、 前者で2.3×106cfu/g、 後者で1.5×104cfu/gであった。一方、 原材料である「みつ」、 同じ時期に製造した「あん」を使った「あんロール」、 「どらやき」について検査したが黄色ブドウ球菌は検出されなかった。

これらのことから、 従業員が保有する黄色ブドウ球菌でだんご用の餅が汚染され、 製造調製工程で「みつ」や「あん」に移染したものと推定され、 本食中毒の病因物質を黄色ブドウ球菌、 原因食品を黄色ブドウ球菌に汚染された餅を使った「みつだんご」、 「あんだんご」、 「大福」とした。

発生要因は、 永年、 和菓子製造に携わり、 事故が起こるはずがないという気のゆるみが食品製造時の取り扱いの不備に現れ、 施設環境の衛生上の不備などが重なったためと推測している。

静岡市衛生試験所
北條圀生 清水浩司郎 山本 桂
静岡市保健所
永井幹美 柴田陽一 岩本修一

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