仕出し弁当の炒り卵が原因と思われる黄色ブドウ球菌食中毒事例−千葉市
(Vol.22 p 193-194)

2001(平成13)年1月、 千葉市内において仕出し弁当の炒り卵が原因食品と思われる集団食中毒が発生したのでその概要を報告する。

1月3日、 A警察署より、 千葉市保健所に食中毒症状を呈した患者が救急車で搬送された旨の連絡があった。調査した結果、 同日正午頃、 市内のH弁当店で調理された仕出し弁当を喫食した2グループ58名中15名が同日午後2時頃から食中毒症状を呈し、 7名が入院した。主症状は、 下痢(67%)、 腹痛(53%)、 吐気(60%)、 嘔吐(60%)、 悪寒(53%)等で、 発症までの平均潜伏時間は4.5時間であった。患者らは某ショッピングモール内のテナント職員および警備員等で、 同日の弁当以外に共通する食事はなかった。

原因菌の検索は、 患者便8件、 調理従事者便10件、 食品22件(弁当残品14件、 同ロット品8件)、 施設内のふきとり24件について行い、 患者便4件と弁当残品7件、 従事者便1件から黄色ブドウ球菌が検出された。分離された黄色ブドウ球菌についてコアグラーゼ型別(デンカ生研)とRPLA法(デンカ生研)およびELISA法(γ-Biopharm社)によるエンテロトキシン(SE)検査を行った。また、 食品中のSE検査も同時に実施した。その結果、 患者便4件と弁当の残品である炒り卵、 肉そぼろ、 昆布佃煮、 紅しょうが、 ご飯の5件からはコアグラーゼIII型・SEA、 従事者便1件と他の弁当残品2件からはコアグラーゼVII型・SEBが検出された。また、 食品中からは、 炒り卵とご飯からSEAが検出された。炒り卵の菌数は 2.7×1010cfu/g、 SEAは20ng/gであった(表1)。

さらに、 コアグラーゼIII型・SEAの患者由来株と食品由来株について、 制限酵素Sma Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)によるDNAパターンの解析と感受性試験を行った。その結果、 すべての株で同一のDNAパターンを示し(図1)、 感受性パターンも同一(ABPCのみ耐性)であった。

以上のことから、 本事例は仕出し弁当の炒り卵が原因と推定されるコアグラーゼIII型・SEAの黄色ブドウ球菌による食中毒と断定された。施設内のふきとりとその後保菌検索として行った従事者の鼻腔からはいずれも当該菌は検出されず、 感染経路の特定には至らなかった。

当該施設は24時間営業であり、 食材の管理、 清掃、 整理整頓が不十分で、 製品を調理後室温に長時間放置していた。このような環境状態の悪さと調理従事者の食品衛生に対する知識の欠如が食中毒を発生させた要因であると思われた。

一方、 今回のSEの検出では、 従来のRPLA法に加え、 ELISA法も用いた。ELISA法は感度が高く、 迅速に結果が得られることから大変有用であると考える。黄色ブドウ球菌による食中毒が疑われた場合は、 ELISA法を検索の一手段として取り入れる必要性を認識した。

なお、 当該施設では、 2000(平成12)年7月にも同型菌による食中毒事件が発生しており、 両事例のPFGEパターンは同一であった。これらのことから、 本菌が共通の感染源であることが推察され、 継続的な調理従事者の保菌や施設内に定着している可能性が示唆され、 興味深い事例であった。

千葉市環境保健研究所
秋葉容子 木村智子 深谷裕子 清宮康子 山口マリ子 石川允朗
千葉市保健所食品衛生課

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