抗菌剤投与後、 再び便中に排菌した腸管出血性大腸菌感染症の症例
(Vol.22 p 196-197)
はじめに:腸管出血性大腸菌(以下EHECまたは"菌")感染症の治療として、 わが国では抗菌剤を投与することが一般的となっており1)、 また菌陰性化の確認方法として、 24時間の間隔を置いて2回(抗菌剤を投与した場合は服薬中と服薬中止後48時間以上経過した時点での2回)の検便検査でいずれも菌が確認されなければよい2)とされている。しかし抗菌剤投与後、 菌陰性化が確認されたものの、 その後再び便中に菌が検出されるようになった事例が報告されている3)。
今回このような事例を3例経験し、 うち1例は二次感染を起こしたことが強く疑われたことから、 現在の菌陰性化の確認方法について検討する必要があると考えられたので報告する。
事例1:患者Aは3歳の女児で、 2000(平成12)年7月20日に下痢を初発として発病し、 21日に小児科医院を受診、 ホスホマイシン(FOM) 900mg/日(体重kgあたり60mg)分3、 5日間投与され、 すべて服薬した。21日の検便よりEHEC O157 (VT1+、 VT2+)が検出された。接触者の検便からは菌は検出されず、 また、 Aの抗菌剤服薬終了48時間後に行った検便から菌は検出されず、 菌陰性化が確認された。
ところが8月10日に、 Aの妹である1歳の女児(患者B)が下痢・血便を初発として発病、 翌11日の検便からAと同様のEHEC O157 (VT1+、 VT2+)が検出された。検便等を実施したところ、 Aから再び菌が確認され、 自宅などの便器からも菌が検出された。他の接触者からは菌は検出されなかった。AとBは、 Aの菌陰性確認後、 風呂に一緒に入っていたことが判明した。
Aの7月および8月の検便から検出された菌株、 Bから検出された菌株、 自宅、 祖父母宅の便器から検出した菌株の5菌株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)検査を行ったところ、 すべて同一系統の菌株であることが確認された。なお、 菌株の薬剤感受性試験結果は、 FOMに対して感受性であった。
Aについてその後抗菌剤投与を行わず経過観察を行ったところ、 8月25日以降の検便では、 菌陰性化が確認された。BについてはFOM[750mg(体重kg当たり100mg)分3、 7日間]が投与され、 その後3回検便を行い、 菌陰性化が確認された。
事例2:患者Cは1歳の男児で、 同年7月25日に腹痛・下痢を初発として発病、 29日に小児科受診、 FOM[600mg(体重kg当たり40mg)分3]を3日間投与され、 確実に服薬した。当日の検便よりEHEC O157 (VT1-、 VT2+)が検出された。接触者の検便より、 母親(患者D)ならびに6歳の姉(患者E)から同一血清型毒素型の菌が検出された。他の家族からは検出されなかった。C、 D、 EはFOM服薬終了後、 8月10日、 11日に検便を行い、 菌陰性化が確認された。
ところが8月21日に、 再度検便を行ったところ、 Cのみから前回と同様の菌が検出された。Cの7月および8月の菌株、 D、 Eの菌株の4菌株についてPFGE検査を行ったが、 内因性DNA分解酵素によると思われる影響によりバンドパターンが消失し、 同一性が確認できなかった。この菌の抗菌剤感受性結果は、 FOMに感受性であった。
Cに再びFOM[600mg(体重kg当たり40mg)分3]を5日間投与したところ、 その後(9月18日、 22日)は菌陰性化が確認された。
事例3:患者Fは4歳の女児で、 同年8月18日に下痢を初発として発病、 24日に下痢・腹痛・血便が出現し、 小児科受診、 FOM[800mg(体重kg当たり40mg)分3]を5日分投与された。検便からEHEC O26 (VT1+、 VT2-)が検出された。接触者の検便より、 6歳の姉(患者G)から同一血清型毒素型の菌が検出された。他の家族は陰性であった。FはFOM服薬終了当日(8月29日)、 および48時間後に検便を行い、 菌陰性化が確認された。
ところがその後再度、 F、 Gの検便を行ったところ、 Fのみから前回と同様のEHECが検出された(9月11日、 14日)。その後(9月18日、 22日)の検便では、 菌陰性化が確認された。
考案:今回われわれは、 1〜4歳の幼児でEHEC感染後、 抗菌剤投与により一旦菌陰性化が確認されたものの、 再び便中に菌を排泄する症例を3例経験したことから、 現在の菌陰性化の確認方法2)について検討する必要があると考えられた。
参考文献
1)平成9年8月21日 腸管出血性大腸菌感染症の診断治療に関する研究班 一次、 二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157等)感染症治療の手引き 厚生省
2)平成11年3月30日 健医感発第43号 厚生省保健医療局結核感染症課長通知
3)坂田 宏、 丸山静男 平成10年1月20日 旭川市における病原性大腸菌O26集団感染の小児に対する抗生物質投与成績 感染症学雑誌第72巻第1号
北海道北見保健所 太田正樹 一色 学
みずもと小児科 水本雅彦