神奈川県におけるつつが虫病患者の発生状況
(Vol.22 p 213-213)

神奈川県でのつつが虫病患者の発生は1988年までは毎年十数名であったが、 1989年に81名と急増し、 1990年に112名の患者発生がみられた。その後減少傾向を示し、 1996年、 1997年には9名まで減少した。しかし1998年に15名と増加傾向に転じ、 1999年35名、 2000年42名の患者発生となった。

1997〜2000年の4年間につつが虫病を疑われた患者 129名について、 immunofluorescence assay)IF)による血清抗体検出、 PCRによる急性期血液からのOrientia tsutsugamushi (O. tsutsugamushi )DNA検出により確定診断を行った。その結果IFのみ陽性14名、 IFとPCR陽性80名、 PCRのみ陽性7名で合計101名がつつが虫病患者と確定診断された(表1)。IFのみで陽性の検体は、 この時点ですでに血清抗体価が高力価であり、 PCRで陰性となったものと血清のみでPCRが行えなかったものである。PCRのみ陽性の検体は、 急性期の血液のみの搬入でIFで抗体が検出されなかったが、 PCRにより血液からO. tsutsugamushi DNAが検出され、 つつが虫病患者と診断されたものである。このようにIFとPCRの検査を併用することにより101名のつつが虫病患者の確定診断が可能であった。

つつが虫病患者のうち、 PCRによりO. tsutsugamushi DNAの検出が可能であった87名について、 型別用のプライマーを用いたPCRを行い、 神奈川県内で発生しているつつが虫病の感染株について検索を行った。この結果、 県内で感染が見られた株はKarp、 KawasakiおよびKurokiの3株で、 それぞれ2.3%、 77%および17%の割合であり、 その大部分がKawasaki株による感染であることが判明した(表2)。型別された中で、 同じ行動をしていて同時期に感染したと思われるつつが虫病患者で感染株が異なる例があった。2000年11月に夫婦で山地の畑での農作業中に感染したもので、 両者の感染場所が離れているとは考えられなった。しかしながらIFおよびPCRの結果から、 夫婦でKawasaki株とKuroki株の別々の株に感染したことが示された。これは2種類の異なる病原体を保有する別々のコロニーが比較的狭い範囲に混在していることを示唆している。また、 このことは時期的にもKawasaki株とKuroki株による感染が同時期におこり得ることを示す結果となった。

県内では毎年足柄上地区を中心につつが虫病患者が発生しており、 2000年のつつが虫病患者の聞き取り調査で得られた感染推定場所は山北町、 南足柄市、 秦野市、 小田原市、 松田町および中井町の6市町村で、 15名以上の患者が発生したのは山北町、 南足柄市の2市町村であった()。

つつが虫病と確定診断された患者の発生時期は10〜12月がほとんどで、 11月が76%を占めていた。また感染時の行動は、 畑、 田圃などでの農作業が多く、 次にキノコ取りなどの山作業で、 日常生活での感染の機会が多かった。

つつが虫病は適切な薬剤投与により完治する病気であるが、 適切な治療が行われないと死亡する例もあり、 早期に確定診断することが重要である。今後もIFとPCRを併用し、 つつが虫病の迅速診断をより確実にする必要があると思われた。

神奈川県衛生研究所
古屋由美子 片山 丘 原みゆき 今井光信 吉田芳哉

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