増菌培養液のPCR検査が早期原因菌推定に有効であったウェルシュ菌食中毒事例−広島市
(Vol.22 p 221-222)

2001(平成13)年2月6日、 市内医院から「食中毒と思われる患者を診察した。」と連絡があり、 広島市保健所が調査を開始した。その結果、 2月4日に広島市内で開催された会合において、 近所の飲食店で調製された昼食用弁当130食が提供され、 会場で喫食した者、 および自宅に持ち帰った弁当を喫食した家族ら、 計139人のうち69人が同日17時頃から下痢、 腹痛を主症状として発症していることが判明した。患者の共通食は当該弁当のみであることから、 この弁当を原因とする食中毒と断定し、 当該飲食店の営業停止の措置がとられた。患者の潜伏時間は平均13.8時間であった。

患者便21検体、 調理従事者便2検体、 および当該施設から採取された食品8検体、 施設スワブ14検体について食中毒菌の検索を行った。患者便の直接分離培養(カナマイシン加卵黄CW寒天)では2検体からウェルシュ菌を疑う少数コロニーが認められたのみで、 19検体からはコロニーを認めなかった。しかし、 TGC培地による増菌培養(100℃、 10分間加熱後培養)では、 患者便16検体(76%)および調理従事者便2検体(100%)の培養液に少量ながらガス産生が認められた。そこで、 これらの増菌培養液にウェルシュ菌エンテロトキシン遺伝子(cpe )を標的としたPCR(TGC-PCR)法を適用した結果、 18検体すべてからcpe が検出され、 食中毒原性ウェルシュ菌が存在することが強く示唆された()。その後さらに、 これらの増菌培養液すべてからcpe 保有ウェルシュ菌を検出し、 血清型もすべてHobbs 1型に一致したことから、 本菌を原因菌と断定した。なお、 疫学調査の統計処理、 調理状況調査等から原因食品は「鶏もも肉のしょうが煮」と推定されたが、 該当する試料がなく、 検査において確認はできなかった。

本事例の発生原因は、 聞き取り調査の結果から、 弁当調製日前日の加熱調理後の不適切な保管、 調製日当日の再加熱不足、 その後の不適切な取り扱いなどが重なり、 本菌が発症菌量まで増殖したものと推定されたが、 汚染経路については鶏肉由来なのか、 その他の食材や環境由来なのかは不明であった。

本事例では、 発症後2日以内の比較的早く採取された患者便検体からも、 通常のウェルシュ菌食中毒にみられるように、 ウェルシュ菌が多数分離されることもなく、 増菌培養から高率にcpe 保有ウェルシュ菌が検出された点が特徴的で、 すみやかに排菌量が減少した可能性が考えられた。このことから、 増菌培養液で行なうTGC-PCR法は、 患者便からの原因菌推定に有効かつ効率的であった。当所では、 「カレー」や「野菜の煮物」によるウェルシュ菌食中毒における病原検索を近年経験しているが、 TGC-PCR法により、 ウェルシュ菌が直接培養で分離できなかった検体についても、 増菌液からcpe 保有菌の存在を示唆する結果が得られたことから、 直接分離菌のPCRと併用することで、 本菌食中毒の早期推定・決定に有効であった。

広島市衛生研究所
石村勝之 山本美和子 毛利好江 児玉 実 佐々木敏之 河本秀一
笠間良雄 山岡弘二 荻野武雄

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