麻疹流行時における生後6カ月〜1歳未満児への任意予防接種事業−沖縄県具志川市
(Vol.22 p 224-225)

2001(平成13)年4月20日、 沖縄県具志川市(沖縄本島中部)は1歳児に対する麻疹ワクチン定期接種の強化に加え、 生後6カ月〜1歳未満児の麻疹ワクチン任意接種への公費負担(無料化)を行うことを決定した。また、 1歳6カ月健診時における麻疹ワクチン完遂率をワクチン接種状況の標準の把握方法とした。これらの事業は、 同島南部地域で前年秋頃より始まった麻疹の流行において乳児の死亡例(生後9カ月女児)が報告され、 また4月16日には1例の麻疹患者が具志川市内の保育所にて発生したという情報があり流行が拡大、 長期化する様相を見せたことや、 市内の医療機関からの提言を受けて検討されたものである。

1998(平成10)年〜1999(平成11)年における沖縄本島・八重山諸島を中心とした麻疹流行時には、 同市を管轄する石川保健所管内では定点医療機関より373名(県内2,034名の18%)の麻疹患者が報告されており、 沖縄県内での全死亡例8名中1名は具志川市の幼児(12カ月児)であった。

今回の生後6カ月〜1歳未満児に対する任意予防接種事業は、 予防接種事故発生時の賠償補償については全国市長会予防接種事故賠償補償保険への対象であることを確認し、 自治体首長の判断に基づく行政措置として公費負担により実施されることとなった。事業期間は4月20日〜8月31日までの約4カ月間とし(当初6月末までの予定を流行の継続により8月末まで延期)、 同市予防接種委託契約医療機関、 市内公立・私立保育所への文書による通知、 市広報誌・県内紙への記事掲載、 市内広報無線による放送(1日3回)を行い市民への啓発を図っている。

定期接種としての麻疹ワクチン接種率は、 2000(平成12)年度の1歳6カ月健診時(受診率84.0%)における81.9%から、 2001(平成13)年4〜6月の1歳6カ月健診時調査では87.2%と増加傾向にある。また、 生後6カ月〜1歳未満児440名中、 麻疹の任意接種を受けた児は181名(7月31日現在)となった。7月末現在までに、 同事業に伴う問題となる副反応事例は報告されていない。乳児への任意接種事業は流行時においてあくまで定期接種を補う活動であり、 接種を受けた児に関しては、 生後12〜15カ月時点での定期(再)接種を必ず行うよう指導している。

沖縄県が掲げる1歳児の麻疹ワクチン接種率95%以上を目指し、 具志川市市民健康課では精力的な防疫活動を引き続き継続・発展させていく予定である。なお、 生後6カ月〜1歳未満児への任意予防接種事業開始直後より、 近隣市町村からの問い合わせが相次ぎ、 結果的に沖縄県内で7月末現在15市町村が生後6カ月〜1歳未満児への任意予防接種事業を開始している。

具志川市市民健康課
平良真知 濱比嘉由美子 仲間 京 照屋寛晶 安慶名敏雄
沖縄県石川保健所
真志取紀美子 上原真理子 譜久山民子

IASR編集委員会註:わが国における麻疹は、 予防接種法による定期予防接種の対象疾病であり、 生後12〜90カ月の者が対象者となっている。接種標準年齢は生後12〜24カ月とされており、 このうちできるだけ早期に行われることが勧められている。予防接種法に基づく定期接種によらず任意接種として行う場合には、 ワクチンの添付文書によれば、 性、 年齢に関係なく接種できることになっている。

海外でも多くの国は生後1歳以上を麻疹ワクチンの接種開始年齢とし、 1歳以降早期でのワクチン接種をいわゆる定期接種として行っている。しかし1歳未満での麻疹罹患は死亡を含む重症化率が高いため、 麻疹患者数がまだ多い地域では生後9カ月を接種対象年齢にしている国が途上国を中心として少なくない。さらにパプアニューギニア、 サウジアラビアでは生後6カ月、 モンゴル、 リビア、 カザフスタン、 中国などでは生後8カ月を接種対象年齢にしている。一方で低月齢であるほど母親からの移行抗体の存在により抗体陽転率は低くなり、 長期的な効果が不十分になることが知られている。これを克服するために、 かつて6カ月児への接種には高力価ワクチンが推奨された時期があったが、 高力価ワクチン接種群は約3年後の死亡率(麻疹以外の原因による)が標準力価群より高いところから(Lancet 2:903-907, 1991)、 6カ月児への高力価麻疹ワクチン接種は中止された。

現在WHOでは、 麻疹ワクチン接種最低年齢を通常状態であれば9カ月とし、 9カ月以下の年齢が罹患することが多いほどの流行状態であれば一時的に生後6カ月児への接種を行うべきであるとしている(WHO Guidelines for Epidemic Preparedness and Responseto Measles Outbreak, WHO/CDS/CSR/ISR/99.1, 1999)。米国CDCでは、 12カ月以下の年齢層が麻疹に罹患する状況であれば、 流行を抑える方法として生後6カ月に麻疹ワクチン接種を行い得るとしているが、 1歳以下で接種を受けた場合には生後12〜15カ月で再接種を行うべきであるとしている(米国では2回接種法となっているので、 この場合は3回接種となる)(MMWR Vol.47/No.RR-8, 1998)。

わが国においては、 麻疹ワクチンを生後1歳以降に接種した場合の効果と安全性については既に確認されているため、 麻疹ワクチンは予防接種法による定期接種として規定されている。しかし、 1歳未満の乳児への接種の効果と安全性についての国内のデータは乏しく、 1歳未満児へのワクチン接種に関しては十分なコンセンサスは得られていない。また、 わが国の麻疹ワクチンと海外の麻疹ワクチンでは、 使用されているウイルス株の種類も力価も異なるので、 海外における効果と安全性に関する成績は、 必ずしもわが国のワクチンには適応できない可能性がある。従ってここに報告された生後6カ月〜1歳未満児への接種方式は、 記事にも述べられているように、 地域における麻疹拡大防止のための一時的手段として、 自治体首長の判断と責任に基づく行政措置として実施された公費負担による任意接種であり、 予防接種法による定期接種とは異なるものである。なおこれらの接種に当たっては、 当然ながら保護者に対してワクチン接種の安全性、 有効性、 および予防接種法の枠外で行われる任意接種であることなどに関して十分な説明を行い、 その上で保護者の了解が得られていることが前提となる。

今回報告された生後6カ月〜1歳未満児への任意予防接種事業はあくまで一時的手段として行われたものであるが、 今後、 疫学的、 ウイルス学的な経過観察が継続して行われることが望まれる。またこの一時的手段が終了した後、 沖縄県が掲げる1歳児の麻疹ワクチン接種率95%以上の目標達成と、 具志川市市民健康課で行われている精力的な防疫活動による成果を注意深く見守って行きたい。

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp

ホームへ戻る