小学校で発生したアデノウイルス3型による咽頭結膜熱の集団発生−オーストラリア
(Vol. 22 p 225-226)
2000年10月19日Queensland州北部のある小学校長より、 Tropical Public Health Unit(TPHU)に対して、 結膜炎、 発熱、 頭痛、 腹痛を主徴として生徒が多数欠席している旨の報告がなされた。TPHUはこの小学校を3度訪問し、 生徒への問診、 質問票への記入、 ウイルス培養検体、 急性期・回復期血清の収集を行った。
この小学校は、 未就学児童5名を含めた1〜7年生までの計53名(男25名、 女28名;年齢4〜12歳)が在籍しており、 10月11日〜13日にかけて、 州最北部の沿岸リゾート地にてキャンプを開催した。これは大きな塩水プールを備えた教育施設で行われ、 3〜7年生36名中30名が参加した。
キャンプに参加した7名の生徒について10月20日に行った調査では、 発熱と頻脈がみられ、 うち12歳の女児は左眼の明らかな結膜炎を有し、 12歳の男児には頚部リンパ節腫大がみられた。ペア血清を採取できた4名中3名にアデノウイルスのCF抗体価上昇が観察され、 結膜ぬぐい液2検体と咽頭ぬぐい液4検体からアデノウイルス3型が分離された。
児童の欠席率は1〜7年生全体の48名中40%近くが欠席した10月20日が最高で、 キャンプ参加者では10月19、 20の両日、 キャンプ不参加者では10月31日と11月3日が最高であった。潜伏期間を6〜9日間と考慮して、 キャンプ後の10月17日〜23日までに体調不良を訴えた生徒は34名、 うち25名(74%)がキャンプ参加者で、 発熱、 頭痛、 咽頭痛などが最も共通した症状であった。残りの9名は二次感染者と考えられ、 キャンプから帰宅した年上の兄や姉から、 学校または家庭内において感染したものと推測された。症例対照調査研究の結果、 潜伏期間内に体調不良となった者では、 「キャンプにおけるプールでの遊泳」が、 また、 結膜充血、 目のかゆみ、 流涙、 発熱、 咽頭痛のいずれか一つ以上の症状を有する者でも、 プールでの遊泳が有意に高い結果となった。
以上の調査結果から、 欠席生徒の増加はアデノウイルス3型を原因とした咽頭結膜熱によることが示され、 キャンプ時使用した施設のプールとの間に強い関連が示唆された。プールの水からアデノウイルスが検出されなかったものの、 プールの管理が適切に行われていなかった証拠が得られている。当該地域では残留塩素濃度が1.0ppmであり、 水質検査も1日に1回のみであった。また、 プールの階段上にある藻から大腸菌が検出されたことから、 プールの清掃が適切にされていないことも示された。
Queensland州最北部では、 持続的な暑さで遊泳者が増え、 大雨による水の希釈も起こりうるため、 残留塩素濃度は2.0ppmが適当で、 少なくとも1日5回は水質を検査すべきである。現在のところ、 州におけるプールの水質と運営を定めた法的基準はないが、 推奨されるべき指針は存在している。プールの管理基準を改善することで、 プールの水を介した集団発生は予防できると考えられる。
(Australia CDI、 25、 No.1、 9-12、 2001)
IASR編集委員会註:日本の遊泳プールの衛生基準では、 「遊離残留塩素濃度は、 0.4mg/l (ppm)以上であること。また、 1.0mg/l (ppm)以下であることが望ましい」とされている(http://www.mhlw.go.jp/public/bosyuu/p0612-1.html参照)。