Salmonella Typhimurium DT104:多剤耐性動物流行株の推移
(Vol. 22 p 226-227)
多剤(アンピシリン、 クロラムフェニコール、 ストレプトマイシン、 スルフォナミド、 テトラサイクリン)耐性型ファージタイプDT104 Salmonella Typhimurium(MR DT104)は、 1990〜96年に英国(イングランド・ウエールズ)で増加し、 ヒトにおける感染例でも多く見られるようになった。ヒトからの分離例は、 1990年の200例から1996年の4,000例以上に増加していた。しかし、 最近3年間は分離が著減し、 1999年には1998年の48%に減少し、 1,030例となった。
疫学:このサルモネラは、 1980年代初めにカモメなどから初めて分離されたが、 英国では1989年までヒトからの分離例はなかった。1989年当時牛から分離され始め、 その後の5年間で英国全体に広がり、 1992年からは家禽類、 豚、 羊でも普通に見られるようになった。この菌のヒトへの感染経路は、 鶏、 牛肉、 豚ソーセージや肉のパテの喫食によると考えられる。ヒトにとってのこの菌の公衆衛生上の重要性は、 1990年代初頭に行われた症例対象調査によって明らかとなったが、 対象患者の36%が入院し、 死亡例も複数あった。他国からもこの菌と関連する重症例の報告があった。しかし、 便での分離と血液培養での分離を比較したところ、 MR DT104は他の大勢を占める型よりも侵襲性は少ない結果であった。
1996〜1999年にかけてヒト感染でのMR DT104は75%減少したが、 その理由は明確になっていない。1995年以降英国では、 牛からのMR DT104の分離がかなり減少したことは明らかである。牛海綿状脳症(BSE)対策のため、 1996年以降牛の屠殺が月齢30カ月以上となったことが関係すると考えられる。また、 牛におけるこの菌の減少は、 牧場の衛生状態の向上と、 BSEに関連した英国における家畜生産の全般的な減少にも関連していると思われる。
フルオロキノロン耐性のヒトにとっての重要性:シプロフロキサシンに対する抵抗性を持ったMR DT104の英国における広がりは、 1993年11月に、 同系統のフルオロキノロン抗菌剤エンロフロキサシンの使用が家畜に対して許可された後である。この抗菌剤は牛と鶏に対し、 治療および予防的に大量に使用され、 食用家畜においてMR DT104が直ちにキノロンへの耐性を獲得し始めた。ヒトにおいて、 シプロフロキサシン感受性減少の臨床的な意義は定まっていない。しかし、 1998年のデンマークにおける集団発生では、 11名の入院患者中4名がシプロフロキサシンでの治療が効果を示さず、 2名が死亡した。これは、 この多剤耐性菌による集団発生において、 シプロフロキサシンに対する抵抗性が臨床的に重要であったことを示している。近年主要な製薬メーカーが、 食用家畜への不必要なフルオロキノロンの予防的使用をとどめるような技術基準を導入した。さらに食品微生物安全委員会(ACMSF)によって、 家畜への抗生剤使用減少のための統合的な施策についての勧告が最近発表された。
(SCIEH、 5 June、 2001)