アルコール多飲者に発症し急激な経過を示したVibrio vulnificus 敗血症の1例−静岡県
(Vol.22 p 249-250)
アルコール多飲者に発症し、 急激な経過を示したVibrio vulnificus 敗血症および同壊死性筋膜炎の症例を経験したので報告する。
症例:患者は72歳男性。大酒家であり、 アルコール性肝障害で通院歴がある。2001年8月8日の朝より気分不快があり、 同日夕方袋井市立袋井市民病院へ受診、 入院となった。受診時意識レベルが低下し、 本人よりの病歴聴取はできなかった。体温38.8℃、 収縮期血圧60台と低下、 右足背に暗紫色の皮膚腫張がみられた。
入院時検査成績は、 白血球 13,000/mm3、 ヘモグロビン 11.1g/dl、 血小板 9.7×104/mm3、 総ビリルビン 3.2mg/dl、 AST 82IU/l、 ALT 42IU/l、 LDH 549IU/l、 γ-GTP 137IU/l、 CPK 730IU/l、 尿素窒素 20.5mg/dl、 クレアチニン 2.6mg/dl、 血清鉄 163μg/dl、 フェリチン 855.8ng/ml、 CRP 3.94mg/dl 、 HBs抗原陰性、 HBC抗体陰性、 ESR(1hr) 17mm。
入院後、 セフメタゾールとミノサイクリン(MINO)により治療したが、 DIC、 多臓器不全に至った。下肢壊死性筋膜炎も急激に悪化し、 8月9日デブリードマンを行ったが8月10日には右下肢切断を余儀なくされた。同日、 入院時の動脈血培養と下肢壊死組織の細菌培養からV. vulnificus 感染症と判明した。人工呼吸、 血液透析下にシプロフロキサシン、 イミペネム、 MINOによる治療を行ったが、 多臓器不全により8月29日に永眠した。意識障害のため十分な問診が得られず、 魚介類摂取歴の有無などの感染経路は不明である。
検出された株の性状:血液と壊死組織に由来する本例検出菌の性状は、 形態がコンマ状のグラム陰性桿菌で、 通性嫌気性、 ブドウ糖を発酵的に分解、 オキシダーゼ試験陽性、 リジン脱炭酸陽性、 インドール陽性、 運動性陽性、 さらに白糖分解陽性であった。同定キットRapidID32E(日本ビオメリュー)にてAeromonas sobria を示した。しかし、 0%NaClペプトン水に発育を認めなかったため、 再度別の同定キットApi20NE(日本ビオメリュー)に接種しV. vulnificus と同定した。さらに静岡県環境衛生科学研究所に依頼し、 本菌のV. vulnificus に特異的なcytotoxin-hemolysin遺伝子の保有をPCR法で、 O1抗原の保有を感染研分与の抗血清で確認した。V. vulnificus の白糖分解能の陽性率は10〜25%との報告もあり、 同定キットによっては判定される菌種が大きく異なるため、 同定する上で注意が必要である。
袋井市立袋井市民病院
源馬 均 小林美希 宮 一朗 岡崎勝男 浦崎哲哉
赤堀利行 伊藤伊知郎 上村桂一 原野秀之
静岡県環境衛生科学研究所
杉山寛治 大畑克彦 西尾智裕 秋山眞人