学生寮における腸管出血性大腸菌O157:H7感染症の集団発生事例−金沢市
(Vol.22 p 250-250)
2001年5月、 市内の学生寮において、 腸管出血性大腸菌O157:H7、 VT2産生(以下O157)感染症の集団発生があったので、 その概要を報告する。
5月21日午後4時30分、 市内の医療機関から血便等の症状で19日から入院中の18歳の男子学生からO157(VT2産生)が検出されたとの届出が当保健所にあった。患者はA大学の学生寮(寮生:男子120名、 女子114名、 計234名)の寮生で、 他に4人の寮生が血便、 腹痛等で別の2病院に入院していることが判明した。このため集団感染を疑い、 寮生および職員の健康調査と検便を開始した。
調査と相前後して、 さらに4人の寮生が入院し、 入院患者はあわせて9名となり、 新たに1名よりO157が検出された。また、 入院していない225名の寮生の検査で13名からO157が検出された。このうち9名は19日前後に腹痛、 下痢などの腹部症状を呈していたが、 いずれも症状が軽くすでに軽快していた。4名は無症状であった。菌が検出された寮生は計15名(有症者11名、 保菌者4名)となり、 入院患者で菌が検出されなかった寮生(7名)のうち5名は検査前に抗生剤投与を受けていた。
菌検出者と入院した寮生(以下菌検出者等と略す)の症状発現日を図1に示す。症状は典型的な血便から、 激しい水様便、 軟便や軽微な腹痛程度、 全く無症状と様々な病相を呈し、 また、 菌陰性者だが急性虫垂炎疑いで開腹手術を受けた者もいた。
寮は食事を提供している。調理員の中で症状を認める者はいなかったが、 職員等2名がほぼ同時期、 血便で入院した。1名は臨床経過から他の疾患の可能性も高く、 また2名とも菌が検出されず確定にいたらなかった。この2名を含め職員・調理員・関係者等20名の検便はいずれも陰性であった。
寮は6室(6人)が1つのブロックとなり、 トイレ等を共用しているが、 菌検出者等が集中したブロックはなかった。また、 菌検出者等は、 全学部(3学部)、 各学年(1〜4年)、 男女にわたったため、 A大学の各学部学生および医療機関に対し情報提供を行い、 注意を呼びかけたが、 寮生以外の本症の届出はなかった。
本大学および寮は郊外に位置し、 周囲に飲食店はない。寮生のほとんどは、 朝夕は寮の食事、 昼はパンや学部の学生食堂などを利用している。寮の検食70検体および施設のふきとり調査を実施したが、 いずれもO157は検出されなかった。また、 喫食状況、 コンパ、 クラブ活動、 アルバイト等の調査を行ったが、 感染源、 感染経路は特定できなかった。
菌が検出された15名のO157株を国立感染症研究所に遺伝子学的解析を依頼したところ、 パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンは13名で一致し、 保菌者の2名がそれぞれ別々のパターンを示した。このうちの1名のPFGEパターンが、 5月の連休に帰省した出身県で同月に発生したO157の患者から分離された菌株と一致したため、 関連性について調査したが、 共通点は見つからなかった。
金沢市保健所 浅香久美子 田中美智枝 岡部佐都瑠 櫻井 登