高知県における麻疹流行と取り組み

(Vol.22 p 282-284)

はじめに:高知県では、 2000年4月〜2001年6月の間に麻疹の流行がみられた(本月報Vol.22、 No.5参照)。1990年以降では、 91年、 93年、 96年および97年に流行がみられているが、 直近では、 1997年以来の流行であった。今回1年2カ月の長期にわたる麻疹の流行を経験し、 流行期間中における県の取り組み状況および今後の対策について検討したので報告する。

対象と方法

 (1)感染症発生動向調査:県内31カ所(1999年3月までは33カ所)の小児科定点医療機関からの麻疹患者報告数
 (2)患者調査:2000年4月〜12月に小児科医療機関で麻疹と診断された患者について予防接種歴を調査した。
 (3)学校における麻疹発生調査:2000年12月〜2001年5月、 私立を除く小・中学校および高校で、 麻疹で欠席した生徒数を調査した。
 (4)麻疹ワクチン出荷調査:県内ワクチン取り扱い卸業者6社を対象に1999年度および2000年度ワクチン販売数量を調査した。

今回の流行状況図1に今回の流行状況を各週、 定点当たりで表した。2001年第4週(1/22〜1/28)で、 定点当たり4.42人、 患者数137人と流行曲線のピークを示した。その後、 増減を繰り返しながら減少し、 2001年第20週に、 定点当たり1.00人を割り、 第22週(5/28〜6/3)に定点当たり0.23人と終息基準0.5人を切ったので、 流行は終息したと考えた。この間の患者数は、 2,429人であった。

また、 学校における麻疹欠席者数は、 表1に示すとおり小学校3.7%、 中学校1.7%、 高校0.6%と、 高学年になるにしたがって少なくなった。

県内の流行状況を地域別にみると、 高知県西部の幡多地域を中心に始まり、 県中央部へと急速に拡大し全県的な流行となった。流行の端緒となった幡多地域では、 例年の流行期を過ぎると終息したが、 他の地域では通常の流行期である4月〜6月を過ぎても終息しなかった。

年齢別患者状況は、 図2に示すように各年齢にみられ、 1歳児が最も多く、 次いで0歳児の順となっていた。0歳児の中には、 6カ月未満の患者発生もみられた。

患者調査では、 表2に示すとおりで、 不明を含み95.4%が予防接種を受けていなかった。そのほか、 脳炎を伴った重症例の報告もあった。

ウイルス分離は、 2000年4月〜8月にかけて定点医療機関受診患者(1歳〜20歳)5名の咽頭ぬぐい液から麻疹ウイルスが分離され、 遺伝子解析の結果、 関西地域で流行していたD5タイプが県内在住者4例、 D3タイプが首都圏在住者1例であった。

麻疹の流行拡大を防止するため、 2001年2月1日感染症発生動向部会を緊急に開催し、 当面の対策として、 定期予防接種の未接種者に対する予防接種の実施、 乳児(生後9カ月以上12カ月未満)に対する予防接種の勧奨および年長児(生後90カ月以上を超える者)と成人に対する予防接種の勧奨について提言を受けた。また、 今後の取り組みとしては、 入学前のチェックおよび広域的に予防接種が受けられる体制づくりの制度化の確立についての提言を受けた。2月2日保健所長会を開催し、 予防接種を呼びかける行動を開始した。

これらの活動をとおして、 年度集計ではあるが、 対前年比1.6倍と接種者は増加した。

県内の麻疹予防接種率(厚生労働省の定めた方法)は、 表3に示すとおりで、 2000年度後半に啓発活動を行ったこともあり93.2%と、 平年次の70%前後の実施率から20%強増加した。市町村別の実施率は、 2000年度36〜133%、 1999年度で24.0%〜101.7%と格差がみられる。

今後の対策

(1)予防接種率の向上:今回の麻疹患者の大部分が、 麻疹予防接種未接種者であり、 予防接種率をあげるために市町村をはじめ関係者が、 なお一層の努力を傾注することが必要である。接種率の目標としては、 現在県版の「健康日本21」の策定委員会で95%を目指すべきとの意見もあり、 95%も現在の集計方法ではなく、 3歳児検診時での実施率とするとか一定の年齢を基に決定する必要がある。流行が発生したことは残念なことであったが、 幸いに、 今回関係機関が熱心に取り組んだ結果、 接種率の向上が見られていることから、 関係者が熱意を持って取り組めば達成可能と思われる。

(2)予防接種を受けやすくする環境整備:共働きの多い本県の特性を考慮すれば、 予防接種の受け手の立場から、 予防接種を受けやすくするための環境整備が必要となる。予防接種を受けようにも、 居住市町村内の体制に合わせなければ受けることができない体制から、 受け手が望む居住地以外の医療機関でも接種できるよう広域的に対応できる体制を確立すること。

(3)チェック体制づくり:現在の1歳半検診や、 3歳児検診、 保育所の入所時および小学校入学前に、 関係者は予防接種歴をチェックし、 受けていない者に対しては、 接種指導できる体制を確立すること。

(4)流行時における0歳児への対応:流行の事態が発生した場合には、 0歳児に対しも、 臨時に定期の予防接種が適用する措置が取れるよう、 予防接種法の弾力的な運用ができるようにすること。

(5)情報提供の重要性:感染症発生動向調査を活かし、 早期に流行状況を察知し、 関係者に積極的に情報提供を発信することが重要である。

謝辞:今回の流行に際しましては、 相当規模の流行であったにもかかわらず、 各医療機関の懸命な治療のおかげで終息の日を見たことに感謝申し上げます。また、 対策にあたりましては、 御提言をいただきました高知県感染症発生動向部会の委員各位、 適宜アドバイスをいただきました国立感染症研究所情報センター、 県保健所、 衛生研究所、 高知市保健所、 教育委員会、 市町村、 高知県医師会、 ワクチン卸業者等関係の皆様の御尽力・御協力に対しまして感謝申し上げます(文責:西本)。

高知県健康福祉部健康政策課 山下泉恵 西本靖男 家保英隆
高知県高幡保健所 大野賢次
高知県衛生研究所 刈谷陽子 宮地洋雄

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