沖縄県における麻疹流行と、 地域における取り組みについて

(Vol.22 p 284-285)

 1.沖縄における麻疹流行の状況

沖縄県の麻疹予防接種率の現状は、 1999(平成11)年度は69.1%(標準年齢)で、 全国に比べて極めて低い状況にあった。そのために過去10年間に麻疹の流行が3度もみられ、 とくに1998(平成10)年7月〜1999(平成11)年8月の1年間に2,000人余の患者発生と、 8人の乳幼児が死亡した。全国の麻疹報告患児の約5分の1は沖縄県での発生で、 入院患児の約70%は2歳未満の乳幼児が占め、 その92%は予防接種を受けていなかった。

さらには、 2000(平成12)年9月〜2001(平成13)年9月においても麻疹の流行がみられ、 2001年1月1日〜9月23日までの間に1,300人(成人麻疹83人を含む)が報告されている。

このことは、 小児保健医療に携わるものに大きな衝撃を与えており、 沖縄県においては、 今日、 緊急性のある課題である。

この課題を踏まえ、 私どもは、 沖縄の子ども達を麻疹から守り、 沖縄の子ども達の健康を保持増進するために、 麻疹予防接種率を95%以上にすることを目標にして、 小児保健医療、 行政、 保育、 マスコミ等の関係者が結集し、 2000年4月22日に「はしか“0”をめざして」の公開セミナーを開催し、 さらに2001年4月19日には、 全県民的行動をおこすべく、 はしか“0”プロジェクト委員会を発足させた。このプロジェクトは、 (社)沖縄県小児保健協会、 沖縄県小児科医会、 日本小児科学会沖縄地方会、 (社)沖縄県医師会の4者が事業主体者となって行動計画案を策定し、 県知事、 県議会、 各市町村首長宛に要望書を提出する予定である。全県民が、 麻疹に対する危機意識をもち、 はしか“0”を目ざす確かな目標を共有すれば、 このプロジェクトは成功するものと確信する。その成果は定期的に評価され、 公表される予定である。

2.麻疹流行時における生後6カ月〜1歳未満児への麻疹ワクチン任意接種(公費負担)

2001年4月20日、 沖縄県具志川市は麻疹ワクチン定期接種の推進強化に加え、 生後6カ月〜1歳未満児へ麻疹ワクチン任意接種への公費補助(無料化)を実施することを決定し、 直ちに開始され9月30日までの期日限定でおこなわれた。具志川市がきっかけとなって、 県内15市町村(主として本島中部医療圏)が同様の事業を実施し、 多数の1歳未満児が公費による任意接種をうけた。現在のところ、 同事業に伴う副反応事例は報告されていない。また、 これら任意接種をうけた1歳未満児に関しては、 生後12〜15カ月時点での定期(再)接種をするように指導をしている(本月報Vol.22、 No.9参照)。

地方自治体(行政)による任意接種の公費補助は、 極めて異例のことであり、 行政側(首長)の英断による実施であるが、 麻疹流行時の緊急避難的措置として、 事前に小児科医と充分な議論とコンセンサスがなされて実施されたものである。麻疹ワクチンを1歳未満児ヘ接種することの安全性と有効性については、 さらなる医学的検証が必要であるが、 これまでに報告された臨床的データやWHOの実績を考慮すれば、 流行時の緊急避難的措置として肯定的にとらえてよいと思う。

3.ワクチン既接種児の抗体価の検討−診療所における調査結果

2001年度の麻疹患児の中にVaccine failureの症例が多いとの指摘があったので、 ワクチン既接種児の抗体価の現状を把握する目的で調査を実施し、 若干の知見を得た。

調査対象:2001年5月15日〜7月11日までの約2カ月間に、 知念小児科医院(以下当院と略す)外来に受診した患児のうち、 何らかの理由で末梢血液検査または輸液時の医化学その他の検査の目的で採血された血液の一部を利用して、 SRLに依頼して麻疹HI抗体およびIgG抗体(EIA)を測定した。症例は70例(男児45例、 女児25例)で、 年齢は1歳1カ月〜11歳5カ月であった。各症例について、 ワクチンの接種年月日、 接種場所、 Lot No.、 臨床経過なども併せて調査した。なお今回の抗体価測定については、 患児の保護者に口頭で説明し了解を得た。

結果および考案:調査対象を、 当院でワクチン接種した群と、 他医院または集団にて接種された群の2つのグループに分けた。

総括して述べると、 当院で接種された51例のうち、 37例(73%)は、 HIあるいはIgG抗体のいずれかに有意の上昇がみられ、 14例(27%)が抗体価が陰性であった。他医院または集団で接種された19例のうち、 16例(84%)は有意の抗体価上昇がみられたが、 3例(16%)は抗体価が陰性であった。全症例70例のうち17例(24%)が抗体陰性であったことは予想外のことであった。しかも今回の調査期間中に、 抗体価陰性の1症例に修飾麻疹が発症したので、 抗体価陰性の15例(修飾麻疹児を除いた全員)に麻疹ワクチンの再接種を実施した。

Vaccine failureの症例について():調査対象の中には、 麻疹児との接触によりすでに感染したり、 後日家族内感染により修飾麻疹を発症した症例が11例みられた。家族内発症例では最初の症例では症状が重く、 次いで発症する例では症状が軽い傾向がみられた。罹患前のIgG抗体価が4.6〜6.3であっても、 濃厚な家族内感染では発症を防御することはできなかった。また修飾麻疹では、 発熱4日目にIgG抗体の上昇が確認された。

Vaccine failureについては、 ワクチンの力価不足、 ワクチン株に対する特異的抗体産生不全などの他に、 ワクチンの不適切な管理および接種などの原因が考えられるが、 当院においてはワクチン業者との密接な連携のもとで適切な管理を行っている。

結語:

1)麻疹ワクチン接種後の抗体価を調査する目的で2001年5月15日〜7月11日の2カ月間にわたり、 小児70例について麻疹HI抗体およびIgG抗体を測定した。

2)70例のうち、 HI(<8倍)および、 IgG(<2.0〜≦3.1)ともに陰性のものが17例(24%)みられた。その全症例にワクチンの再接種を実施した。

3)HI抗体は低値を示す例が多く(70例中38例、 54%)、 IgG抗体または他の方法をも併用する必要がある。

4)Vaccine failureの症例(11例)では、 家族内感染が多く、 最初の症例は症状が重い傾向にあり、 抗体価の上昇は発熱4日目にみられた。

5)Schwarz FF-8株、 AIK-C株では、 HIおよびIgG抗体は高値を示す傾向がみられた。

6)麻疹の流行時期には、 機会があれば抗体価の測定を行い、 陰性例ではワクチンの再接種をすべきである。

4.麻疹根絶への提言

1)県民の意識を変える:21世紀になっても、 麻疹患者が発生するということは、 全く異常であると認識する。今まで麻疹を根絶することは困難だと思っていた小児科医が多かった。小児科医自身の意識を変えなければならない。

2)1歳児(標準年齢)での麻疹ワクチン接種率を95%以上にする。はしか“0”プロジェクト委員会の行動計画を実施する。

3)流行時の緊急避難的措置としての6カ月〜12カ月未満の任意接種は、 地方自治体と密接な連携のもとで今後も要に応じて実施する。

4)麻疹ワクチンの2回接種(1歳時および就学時)を法制化するように国に働きかける。麻疹感受性者の蓄積を少なくし、 麻疹の流行阻止と成人麻疹の発症を阻止するために、 ワクチンの複数回接種は必要不可欠である。

沖縄県はしか“0”プロジェクト委員会
具志川市小児科医 知念正雄

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