微生物学的リスクアセスメントに対する取り組み

(Vol.22 p 294-295)

食中毒の原因病原体を含め、 食品を介するヒトの疾病原因を制御し、 疾病予防をはかるためには、 食品原材料がフードチェーンを通して加工・調理され消費者の口に入るまでの各箇所において、 適切な衛生管理を行なう必要がある。このためには、 現時点における疾病発症のリスクに関する科学的な予測をもとに効果的な管理方法の導入を図ることが望ましい。また、 食品流通の国際化が急速に進む中、 食品衛生に関する規制や食品の規格基準を複数の国の間で比較討議するための共通手段も必要となってきている。このような背景から、 世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)合同食品規格計画(CODEX委員会)では、 国際基準や指針等の策定に当たってはリスクアセスメントに基づいて行なうことを勧告した。微生物危害に対する定量的リスクアセスメントを先進国以外にも速やかに拡大する必要があることから、 1999年、 FAOとWHOに対して国際的なリスクアセスメントを行なうよう勧告がなされた。これを受けてFAOとWHOでは2000年初めより草案作成グループを編成し、 鶏卵および鶏肉におけるSalmonella 類、 調理済み食品(ready-to-eat food)におけるListeria monocytogenes 、 魚介類におけるVibrio 類、 そして鶏肉におけるCampylobacter 類に対するアセスメントを開始した(http://www.who.int/fsf/mbriskassess/Reference/index.htm参照)。

国立感染症研究所食品衛生微生物部と感染症情報センターからは、 草案作成グループとその成果を評価する専門家会議に職員が参加している。Salmonella Listeria のリスクアセスメントにおいては、 2年間のプロジェクトがほぼ終了し、 その手法として望ましいモデルの提示が行なわれた。また、 施策担当側(CODEX食品衛生部会)からの要請に基づき、 感受性集団の特定や対策の比較検討が行なわれた。Vibrio Campylobacter については、 1年目の作業として、 対象食品ごとの汚染状況がまとめられた。このうち、 Salmonella のリスクアセスメントにおいて、 各地方衛生研究所ならびに保健所から寄せられた食中毒に関するデータが、 摂食菌数と発症率との相関を解析するにあたり、 重要な情報として新たに加えられた。これらのデータは各国から非常に高い評価を受け、 国際的リスクアセスメントの推進に大きく貢献した。

一方、 国内においても微生物学的リスクアセスメントを早急に行なうことが求められている。食中毒菌(特に腸管出血性大腸菌、 Salmonella 、 腸炎ビブリオ、 Campylobacter 、 あるいはL. monocytogenes など)に関する、 和文、 英文の報告、 衛生研究所年報、 食中毒事例報告等は、 重要なデータ源であり、 各研究機関と協力関係を構築し、 それらのご提供など、 ご協力を仰ぎたい。リスクアセスメントの実施にあたっては、 情報の双方向の伝達と透明性の確保が重要である。リスクアセスメントの進捗状況については、 各段階において討論会等を開催し、 またインターネットへの公開を通じ、 各方面からご意見を頂く予定である。

国立感染症研究所・食品衛生微生物部 春日文子 山本茂貴

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